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掬水へんろ館ウマヤドの自転車遍路1人旅《8月13日 - 11日目》
朝6時30分出発。体調良好。四万十川に架かる渡川大橋が美しい。
321号線足摺サニーロードを四万十を左に見ながら併走。
ガードレールがなく、自然に近い状態をつくっている。
この道を設計した人の感性に拍手。
9時、土佐清水港に。防波堤に座って強い潮の香を楽しむ。

今日はあしずりユースホステルを予約してある。
お盆で泊まれるところがほかに見つからない。
ユースというくらいだから年取ってると駄目かな、と思ったが、
そんなことはなかった。当たり前か。

茶髪の少年が自転車で近づいてきた。
おじさん…何だ、君か。どうしたの、みんなは?

「南無」の幟を持って、2台の原チャリに4人、
金泉寺で逢った、暴走族遍路の一人だ。
みんなバラバラになった…と前置きして。
ほんとはね、俺たち、金ないじゃん。
遍路の途中、コンビニで適当にいただけばいいやって考えてたの。
こっち来て驚いたのはコンビニがない!どうにかしのいできたけど、
土佐山田のよろず屋で万引き、バレちゃって、チャリもエンスト、3人、捕まった。
俺だけ、走って逃げた。
プロパン運ぶ小型に乗せてもらったら、
にいちゃん、4、5軒手伝っていきなよって言うから。
終わったら、歩くの大変だろって、家の使ってないチャリくれた。
ギアもついてるよ。
広島の暴走族遍路、雄二君と足摺まで一緒に走る。

足摺岬への海岸線、岬東回りを窪津崎に向かって走る。

…大介はね、俺たち逃がそうとしてPCに体当たりしたんだ…
…ピーシー?…パトカーだよ…

窪津崎から権現へ。崖の上の細い道。1車線で回りが石垣。

…どうやってお参りしてるの?…お経、一行だけ…何て?
…色即是空…一行だけか…悲しい時のおまじないにもなるって…
誰が?…お遍路のおばあちゃん…。

11時、今日は54キロ走って、ここまで。
午前中で終わったのは初めてだけど、宿の都合でしかたない。
体の調子が良いので少しもったいない気もする。

…今日はどこまで?…野宿だから行けることまで…

大切にとっておいたお接待の千円札と自分のを少し合わせて雄二君にわたした。
こっちの千円札はお守りになるかもしれないから、なるべく使わないように、
などとありがたみをつけて。雄二君が両手を合わせて合掌したのには驚いた。

…またね。
…うん。

三十八番・金剛福寺、参拝。初めて、色即是空とつぶやく。しきそくぜくう…か。
暴遍の雄二君に負けてるな。
彼の亡くした友人、大介君のためにもう一度。色即是空。

里心がついて家に電話をしてみた。
…今、麻雀してるの。
急にひらめいて、
…四万十川を通ってきたんだ。だからラッキーナンバーは四万と十万…
…あら、麻雀に十万はないわよ。

夜、四国に来て初めて雨が降った。
自分は今、どこにいるのだろう…
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