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平成11年『自分探しの旅』
【5日目】(通算47日目) 4月19日(月)[ 雨 ]
それほど綺麗な旅館ではないなぁ、なんて思ってたわりには、久しぶりによく眠れた。(「快適な睡眠」と部屋の美醜は関係ないようだ)
朝ごはんも、おいしかった。目玉焼きなんかも出て、さすが学生さん仕様の宿。今までの遍路宿とはひと味違う朝食に、大満足だ。今日も愛ちゃんと2人で出発。そして今日も雨。はじめからカッパ姿で歩く。
宿の奥さんに教えられたとおり、山の麓までは、「遍路道」ではなく車道沿いを歩いた。大師の子犬
宿から6キロ足らず。
第71番札所「弥谷寺」は、山の岩肌にはりつくように建っていた。参道の急な階段が、鋭角に上へ上へと続いている。ため息がでるほど、雨の似合うお寺だ。
あまり参拝客もなく、ひっそりした境内。階段を一番上まで上がると、小さな本堂がしっとり佇んでいた。でも、その古びた本堂の賽銭箱の前で、小さな白い子犬が、寒さにふるえながらヨタヨタしているではないか。
お詣りもしないまま、2人して子犬の横に座り込んでしまった。
カロリーメイトを食べさせたり、寒いだろうとタオルを敷いたり、撫でたりと、ひとしきり世話をやく。雨をよけた本堂の軒下、2人の遍路と子犬の、静かな時間が過ぎていった。
(朝一番から、こんなにゆっくりしちゃっていーのかなぁ)
まだ幼い子犬だし、誰かが「拾ってください」とおいていったに違いないのだが、私たちは旅の途中。連れていくわけにもいかない。
長いこと悩んだ末、子犬はやっぱり「お大師さま」におまかせすることにした。
(ここのご本尊は千手観音だったけど)
白いタオルの上で、すやすやと眠り込んでしまった子犬に心を残しながら、お詣りを済ませ、本堂をあとにする。幽玄の弥谷寺
階段を下り、また別の道を少し上がると、「大師堂」がある。
入口で靴を脱いで上がるのだが、愛ちゃんも私も、雨で「靴下」はびしょぬれ。
祭壇前までは近づけず(畳敷きだったので、遠慮した)、まわりの板張りの廊下に正座して、お経をあげた。
一歩歩くごとに足跡で濡れる廊下を拭きながら、廊下を奥に進むと、大師が幼少期に学問されたという岩屈があった。むきだしの岩肌を前に、妙に心落ち着く。
愛ちゃんも、気に入った所では時間を気にせずゆっくり過ごすタイプなので、女遍路2人、霧雨の弥谷寺の岩穴奥深く、わずかにもれる薄明かりの中、幽玄の時を過ごしたのだった。(おちつくのよねー、なんだか)お寺を出る時、「1年中四国参りをしている」というご夫婦に会って、2枚ずつ金のお札をいただいた。今治市の方なので、「(遍路の途中)いつでも訪ねてきなさいね」と言って下さった。
「でも、いつも遍路に出てるからちっとも家にいないんだけど」とも・・・。
うーん、どうしたらいいの?お昼になっていた。
「少しあたたまりたい」と、お寺を下る途中にある「俳句茶屋」でうどんを食べていると、さっきの白い子犬が、元気に階段を下りてきた。
俳句茶屋の奥さんが「お寺の犬が生んだ子やわ」と教えて下さったので、なーんだ、「よかった、よかった」と、2人で胸をなで下ろした。
(愛ちゃんは、捨て犬なら、やはり連れて帰ろうかとまで言っていたのだ)そこから2.5キロほどは、山の中の遍路道。雨でよく滑ったが、女遍路2人、キャーキャー言いながら、なんだか楽しい。
平地に出て2キロ足らずで、第72番札所「曼陀羅寺」に到着した。
ここでも、いきなり犬がやってきて愛想をふりまく。今回も、よく犬に出くわすけれど、皆、吠えもせず、かわいいから・・・すぐ遊んじゃう。
このところの「犬ぎらい」ならぬ「犬こわい」が、直ったみたいだ。「自転車遍路」の苦闘
次の寺までは、たった0.4キロなのに、また迷った。
ウロウロしていると、2人の自転車遍路のおじさんが、指さして教えて下さる。
短い距離だが、けっこうな登り道になっているので、おじさんたちも自転車を降りて押して歩いておられた。自転車の前後に積まれた大きな荷物があまりにも重そう。おじさんもゼーゼーと荒い息になっておられたので、愛ちゃんと2人で、
「お接待しますー」と、少し押してみた。押してびっくり。
なーんて重いんだ! こりゃ「歩き」より数倍、体力気力がいる。
「歩きは大変だね」と、心配して下さるが、「自転車の方がぜったいシンドイ!」と、あらためて思いましたよ、ほんと。第73番札所「出釈迦寺」に到着。自転車遍路のおじさん2人は、慣れた手順で参拝を済ませ、「じゃあ、がんばってね」と、手を振って出ていかれた。
今度は、下り坂なので、自転車に乗って、ぴゅーん。
アッという間に見えなくなった。かなり疲れておられたけど、大丈夫かなぁ。
がんばれ、おじさん自転車遍路たち!修行できず
さて私たちも、のんびりペースながら、なんとか参拝を済ませる。
この寺の奥の院には、弘法大師が7才の時、
「我もし佛の道を得て衆生済度の願満たば救い給へ、意願契はぬなれば命失うとも悔ず」と言って「捨身の修行」をされた、「捨身ヶ嶽禅定」がある。
「身を投げて修行する」というだけあって、とても険しそうな山の中腹にあった。(お寺から見えた)お詣りのあと、愛ちゃんはその山に登りたかったらしいが、坂道を小川のように流れ落ちてくる雨と、「根性なしなので私はやめときまーす」という(私の)言葉が、彼女の意欲をそいでしまったようだ。
「今度来た時にします」とあきらめてしまった。(なんだか悪いことしちゃった)
彼女が「どうしても行く」っていうなら、やっぱり心配なので、私もついて行こうかな、とも思っていたんだけど・・・。(ホントよ)この辺りは、次の寺が近い。
(71番寺から77番寺は、円を描くように、近接している)
次は2キロで、第74番札所「甲山寺」に着いた。
こじんまりしたお寺だが、ご本尊は、弘法大師の作と伝えられる「薬師如来」だ。
「みんなの健康」祈願にも、一段と力が入る。お遍路ボードとカメの寺
次は1.6キロで、第75番札所「善通寺」。
弘法大師の誕生所として、「遍路」のみならず、たくさんの観光客がお詣りに来る「観光名所」でもある(と思う)。
お寺で「納経」をしないかわりに、記念と証拠の「写真」を撮っている愛ちゃんも、さっそく「赤門」の前で写真撮影をしていた。
私は、そばの電話ボックスから、この善通寺の宿坊に電話を入れてみる。
「夕食はできませんが、どうぞ」ということで、快く泊めて下さることになった。(よかった)
「宿坊は、あまりいいウワサを聞かないから、今まで一度も泊まったことがない」という愛ちゃんを、なかばゴーインに道連れにすることにした。
確かに、「お寺の宿坊は、歩き遍路を泊めてくれない」とか、「冷たくあしらわれて、イヤな思いをした」というウワサを、最近よく聞くようになった。でも、「8年前から『宿坊』愛好者」の私には、誤解を解きたいという思いもある。
(「冷たい」ところもあるかもしれないけれど、「おつとめに参加できる」「ご本尊や大師像に、直接会える」という利点も多いので、ぜひ愛ちゃんにも経験してほしいと思ったんだもん)
お遍路ボード発見!
今日はカッパ姿なのでちょうどいい泊まる場所が決まったので、安心して、あらためて正門にまわって参拝入場。
真言宗善通寺派の総本山、「善通寺」は、さすがに大きい! 広い!
それになんと、観光地によくある、顔だけ出して記念写真を撮る「人形ボード」が、お遍路さん姿で立っていた。
「なーんてものを置いてるんだろーねー」とか言いながら、愛ちゃんはもとより、私まで、しっかり写真に収まってしまった。
(本物の遍路が、お遍路人形ボードから顔出してるなんて、かなり変?)本堂に進んで、ご本尊「薬師如来」像の大きさに、またまたびっくり!
以前にも旅行で来て一度見ているハズなのに、今回はまるで印象が違う。
「遍路にとっての如来」の存在が、そう思わせるのかしらん。
その証拠(?)に、73番寺あたりからおもいっきりズキズキしていた左足首の筋の痛みが、ここでお祈りしたら、「あら不思議」、アッという間に消えた。
フシギーフシギー、なんでー?
(「なんでー?」と思うあたりが、本当に信心してるのか?と言われそうだけど)
でも、・・・有り難いことです。「カメのいる池」(ここのカメは、呼ぶと必死で泳ぎ寄ってきて、ムチャクチャかわいいのよ)にかかる橋を渡って「大師堂」へ。こちらもりっぱだ。
さすが本家(?)。
5時前になったので、あわてて納経を済ませる。
納経をしない愛ちゃんを見た納経所のおじさんが、「もったいないなぁ」と一言。 うーん、そういう言い方もあるか・・・。
(「納経の価値」は本人が決めることだと思うんだけどね)善通寺に、チェックイン
これまたりっぱな「宿坊」にチェックイン。
フロント係りのお坊さん(修行僧?)の、ホテルマンのような応対に、愛ちゃんびっくり。建物もりっぱだし、ほんと、ホテルに来たみたいだ。
「今日は団体さんも少ないので」とおっしゃるが、40人もいるんだよ!
それでも「静か」なのだから、やはり大きな宿坊なのだ。愛ちゃんと向かい同士の部屋に落ち着いて、濡れたものをぶら下げたあと、お弁当の買いだしに出かけた。
足も靴下もグチョグチョのままだけど、買い物は楽しい。
温めてもらったお弁当を持って、愛ちゃんの部屋で、ディナーした。
団体さんが食堂で夕食を食べている間に、お風呂と洗濯。部屋に帰って洗濯干し。家にも電話。ああ、忙しい。善通寺の宿坊の掛け布団は、なんと「羽毛布団」だった! すごい!
部屋も清潔にしてあるし、暖房設備も完ぺきだし、おみやげ(パンフレットとボールペン)まで置いてあった。アンケート用紙まで!恐れ入りました、善通寺さま!
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