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掬水へんろ館

平成7年『震災と遍路』
【9日目】(通算26日目) 4月20日(木) [ 快晴 ]

 朝のおつとめのあと、朝食。昨夜の団体さんは、いつものように、ダーっと食べてダーっと出ていかれた。
 3人の女歩き遍路は、来た時と同じようにそれぞれ別々に出発。お隣りさんだった福岡からの彼女(若松さん)が、私より15分ほど早く出た。

 私も今日は、荷物がいくぶん軽いせいか、肩が軽い。気分さわやか、お天気良好、タッタカタと元気に歩く。足摺岬を、きのうとは反対側の海岸を辿って行く。スカイラインではないので、地元のバスや車だけが通るといった感じだ。樹々のきれぎれに、太平洋が美しい。
 くねくね曲がりながら歩いていると、先の方の小さな半島の樹々の切れ間に、白い服が見えた。若松さんだ。向こうも私に気がついたようで、お互い、杖と手を大きく振る。妙にうれしい。

進化するへんろ道

 龍宮神社の入口付近。トイレの前のベンチで、若松さんがタバコを吸って休んでいたので、少しお話。やがて彼女は、一足先に発った。私もトイレを借りて出発。龍宮神社は、少し遠そうだったので、お参りしなかった。(怠慢な遍路で、すみません)
 おまけに、若松さんの地図にはあって、私の少し古い地図には載ってない「山の中に入る遍路道」も、見事に見落とした。(「へんろ道保存協力会」の遍路地図は、何年かに一度更新しているようで、新しい遍路道や情報もドンドン増えてるようだ)
 しばらくは海岸沿いにせっせと、「歩きやすい道」を通る。この辺の集落はとても落ち着いていて、人もほのぼのした感じだ。

 払川橋を越えると、土佐清水の漁協に出た。大浜を過ぎ、中の浜の集落のあたりで、「あ、ちょっとまとまった家々があるぞ」と思って歩いていると、おばあちゃんに声をかけられた。「ここ通ってまっすぐ行ったら近いけん。あっち(車道側)通ったら遠回りじゃけん。さっきも女の人が一人行ったけん。こっちの方がうんと近いけんね」と、親切に教えて下さる。「へんろみち」表示のある方向だし、丁寧にお礼を言って、その方向へ進んだが、けっこうな階段。久しぶりに足にこたえる。しかしなるほど横を見ると、車道がくねくね曲がって上がっていく。このくねくねを、階段で一気に直進して上がるんだから、ほんに「近道」に違いない。
 と、ここまではよかった。いったん車道に出たので、今度はその道を行けばよかったのに、つい、遍路標識に従って、山の中へ入ってしまったのだ。前の方に、チリンチリンと、若松さんのだろう鈴の音も聞こえだしたので、誘われるようにフラフラと・・・。ああ、なんたること!
 昨夜、「迷いそうだし、大変そうだし、山へ入る遍路道はやめて、海沿いの車道を歩こう」と若松さんと2人、決めていたのに。ついつい入ってしまった。

遭難?

 山に入ってすぐに若松さんに追いついて、お互い苦笑い。結局、2人で山を登ることになった。まぁ、2人なら心強いか。でも、やっぱり山登りはつらい。ぜーぜー言いながら、まだかまだかと登る。
 ここは、遍路標識が極端に少なく、草が茂って、あまり人が通った気配もない。(遍路道保存協力会の方々が、時々山の遍路道の「草刈り」をして下さっていると聞くが、この山はまだみたいだ。
 2人して、山の中、何度も間違えるわ、迷うわ・・・。おまけに、頭の高さくらいの草が、ぼうぼうと茂っている細い下り道で、思いっきり滑ってころんで、しりもちをついた。(痛かったぞー、恥ずかしかったぞー、かっこ悪かったぞー!)

 このまま「女遍路2人、遭難か?」と思いはじめた頃、なんとか下界に降り立った。 人の家のガレージの横から、ムリヤリ出た! という感じだが、方向的にはあってたので、そのまま進むことにした。

 「鹿島公園」というちっちゃな公園で、2人で昼食。この公園の入り口には、りっぱな自販機があって、「原宿ドック」なる食べ物(説明しにくいが、サンドイッチの形態のホットドッグ、というところかな。え? よけいわかりにくい?)や、焼きそば、ピラフまであっておもしろい。私は「原宿ドック」、若松さんは「焼きおにぎり」を買った。某有名冷凍食品会社の製品なので、まあ大丈夫だろう(根拠はないけど)。チンして出てくるので、あったかでおいしかった。晴れてはいるが、風があって寒い。
 あまりじっとしていられなくて、また2人で歩き出す。

遍路と千鳥

 ここからはまた、以布利の方へ逆戻りすることになる。以布利の第一、第二の2つのトンネルを越えると、きのう通った道が現れた。見たことのある道を帰る。 若松さんは、けっこう「遍路道」(新しい地図には載ってる)を通ってきたらしく、今日の道は珍しそうだった。
 きのう遊んだ子犬たちにも会った。やっぱりかわいい。きのうは車道を通って大回りした大岐の浜を、今日は海岸に降りて、波打ち際を歩く。
 海に流れ込む小さな川を、2人でこわごわ「よいしょ」っと越える。ほんとに小さな川なのに、きゃーきゃー言ってたいそうに飛ぶところなんか、「私たちって、やっぱり女の子ねぇ」、と変な感慨。(「女の子」というほど若くはないんだけど)

 白い砂浜を歩く。むちゃくちゃ気持ちがいい。エメラルドグリーンに続く、スカイブルーの海。ハワイのワイキキビーチにも負けていない。(大岐の浜にはワイキキほど人が多くない分、もっと快適かもしれない)
 海の中に、人がぽつり、ぽつり。腰まで波につかって、熊手のようなもので、海底をかいてる。貝でも採っているのだろうか。波打ち際には千鳥も何羽かいて、せわしなく、ちょこちょこと走り回っていた。これが速い速い。 (その千鳥足で、よくつまずかないもんだ)

 浜に入る手前で、大学生くらいの2人の男の子に会った。あとで会った名古屋からの76才自転車遍路じいちゃんのリサーチによると、2人は、途中(どこか聞いたのに忘れた)で会って、一緒に歩いてるんだそうだ。今日は中村から歩いてきて、足摺りまで行くんだと。45キロあるんだよ、すごいねぇ、若いもんはエライねぇ。とても真似できないけど、私たちも女2人でいろいろ話しながら、笑いながら、せっせと歩いたのだった。

どちらも「安心」の宿

 旅は道連れ、女同士は話がはずむ。「もうちょっと真面目に歩きなさい」と言われそうなほど、2人ともよくしゃべり、よく笑った。おかげで今日は少しも辛くないし、とても速く歩ける。 久百々のあたりで、野菜やくだものを積んだ車が止まって、バナナを5本も下さった。ありがたくいただいて、納め札を渡す。
 久百々から下ノ加江は、すぐだった。じきに、若松さんの宿泊する「安宿」(という名前なのだ)に着いた。別れの挨拶をしているところへ、少し年配の外国人遍路カップルが到着。若松さん、今夜も楽しい出会いがありそうだ。

 午後4時をまわった頃、私もまた、田舎の我が家に帰り着いた。みんなで心配して待っててくれたようで、有り難いことだ。今夜もごちそう。 ビールなんて3本も飲んでしまった。

 今回の旅はここまで。今日は足も痛くないし、明日は神戸へ帰るだけ、極楽だ!

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