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掬水へんろ館

平成7年『震災と遍路』
【7日目】(通算24日目) 4月18日(火) [ 雨 ]

 午前7時44分、「サンリバー四万十」を出発。快適に泊まって温泉にも入ってゴキゲンで、宿泊料金5,747円は、安い! いいぞいいぞ。でも、外はまた雨。もはやレインスーツは、第二の遍路装束となりつつある。
 足が慣れてきたのか(今頃?)今日はかなり元気だ。もうすぐ田舎の祖母に会えると思うと、気分もウキウキしてきた。

 四万十川沿いに、雨の中をズンズン歩く。国道は恐いので、川べりに降りて、一人静かに行く。トンビやカラスがいて、とてものどかだ。(ここでカヌーでもやりたい気分)
 雨の中で、なかなかリュックを下ろせないのが幸いしたのか、今日はドンドン進めた。八束を越えて山あいに入っていく。ずっと国道が続いているので、山登りの苦労も、道に迷う心配もなかったが、やはり足が痛い。伊豆田(遍路地図では伊豆田坂)トンネルの手前で、今大師という社を見つけたので、少し休憩のため、入らせていただいた。高台になっているので見晴らしもいい。お堂の軒下、きのう買ったおにぎりとジュースで、お弁当にした。

 桜の淡いピンクと眼下に広がる田園の豊かな緑が、あまりにも艶やかだ。 雨の匂いが旅情を誘う。うーん、「にっぽんの春、小雨のある日」って、感じ。

カァとクワァ

 近くの電線で、カラスが一羽、カァカァ鳴きだした。なんとなく見ていると、そのカラスが、今度は「カァ」と大きく一声。と、どこからか、「クワァ」と、応えるような声が聞こえた。まもなくもう一羽がやって来て同じ電線に並んで止まった。すると、はじめの方の「カァ」があとの「クワァ」にエサをやりはじめたではないか。私はカラス同士の「エサやり」をはじめて見た。あとの「クワァ」が「クワァ、クワァ、クワァ」とやかましく甘えながらエサをもらっている。全部もらい終わると、「クワァ」は、アッという間にどこかへ飛び去って行った。なんてゲンキンなヤツだ。
 同じくらいの大きさだったが、親子だったのか、恋人だったのか、私には知るよしもない。もし恋人同士だったら、愛を与える「カァ」の方が幸せなのか、うまく世間を渡っていく「クワァ」がいいのか・・・。

 残った「カァ」は、いつまでも同じ所に止まって、雨に打たれながら、時おり「かぁ!」と鳴いていた。

ご先祖さま、子孫です

 桜と田んぼと「カァ」を楽しんだ私は、トイレもすませ、すっかり元気になってまた出発。でも、身体が冷えきっているし、2キロ近くあるトンネルを歩いて、また少し疲れてしまった。トンネルは(何かでてきそうで)少し恐いので、何度もお経を唱えて息を大きく吸う。2キロはかなり長いので、排気ガスをイヤほど吸ったと思うと、よけい不快になる。 しかし、トンネルを抜けると、そこはもう、土佐清水市なのだ!

小さい頃よく遊んだ川

 もうすぐ「おばあさん!」(に会える)と思って一心に歩いていると、あっという間に、市野瀬を過ぎ、小川通りのあたりまで来た。ここのバス待合所でひと休み。次のカーブを曲がりきると、下ノ加江だ! なつかしい、うれしい、川はいい!(私は、幼い頃の数年をここで暮らし、その後も中学生くらいになるまでは、夏休みは毎年、この「下の加江」で過ごしていたのだ)
 右手前方に、見覚えのある鳥居を発見。小さい頃行った夏祭り(秋祭り?)を思いだした。あのお宮さんに、露天がいっぱい出てたこと、祖母の家からさんざ歩いて、とても遠かったこと。幼い頃の、なつかしいような切ないような、とてもあったかい思い出が甦って、ひどくうれしかった。それからはもう、喜んじゃって、足が速くなる速くなる。
 とうとう、我が先祖のお墓地帯に着いた。祖父の墓、祖母の先祖の墓、とおまいりして、線香とお経を供える。 突然、白装束の子孫が訪ねてきて、ご先祖様、びっくりされたろうか。ほほほ、子孫はこのとおり元気です。ここまでのお導き、ありがとうございました、などと言ってみる。

田舎の我が家

この時、91歳の祖母

 祖母も、叔父も叔母も、みんな元気で、みんなでワイワイ私を迎え、世話をやいてくれた。(超照れ屋のいとこは、顔を出さない)
 祖母はいきなり、私の遍路地図で、「明日の道順の研究」をはじめている。まるで自分が歩くかのような熱心さだ。もう90才を越えているというのに・・・。 彼女の趣味はゲートボールと読書。この元気と好奇心、ぜひ見習いたいものだ。 叔父叔母とも、あまり多くを語らないタイプだが、あぶなっかしい姪っ子をいたわってくれる気持ちがヒシヒシ伝わって、身体がほかほかしてくる。

 ご飯もビールもたらふくいただいて、ふかふかの布団に包まれて、安心して眠りについた。

 親戚ってありがたい。

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[遍路きらきらひとり旅] 目次に戻るCopyright (C)2000 永井 典子 (イラスト・obata55氏)