のらくら遍路日記〜土佐・修行道場篇(序) | ||
北村 香織 |
| 7月17日(土) |
今朝の坐禅
サイテー! 1時間半持たなかったばかりか、最後の40分ほどは足が安定せずゴソゴソし通し。どっぷり自己嫌悪に陥った。ビリビリ・…は1時間と1時間20分あたりにドッと来た。頑張ったけど、しまいに体がブルブルきて、ついにギブアップ。雑念だらけになった。昨日叱られた姿勢に注意を集中させた割に、気がつくといつのまにか猫背になっている。悪い癖とは思うけど、どうやったら治るんだろー
すごいイヤ〜な気分で朝一の草引きをした。小雨がぱらついたけど、もう持ち直している。朝ご飯はお粥さん。完璧な仕上がりですごくおいしかった。やっぱりかまどで炊くから? 和尚さんが心が込めて丁寧にお米を研いではるのもあるだろうな。本当にここのご飯はおいしい。カツオはやっとなんとか食べきれた。ほんまに贅沢させてもらってるわ〜
ホーホケキョ、と鶯が日がな1日鳴いている。(別に“となりの山田くん”を意識した訳ではない。すっかり俗世とは離れていたので)
久しぶりにNHKの朝の連ドラを見た。もう戦争が終わっていた。一番上の兄さんが戦死して、竹ちゃんは復員していた。その後また草引き。今日は本堂の回りに行った。今朝のお勤めの最中から本降りになったので、お勤め後に三方の障子を閉めていたのを開けに行ったら、壁のところにちゃんと坐禅の仕方が貼ってあった。目を閉じちゃいかんかったのね…。道理で私の動きが全部バレてると思った。さすが和尚さん、スゲエ〜と思ってたのに。 坐り方もお尻と両膝で三点支えにするらしい。全然知らなかったので、今日はお昼から試しにきちんとやってみよう。明日の朝でもう終わりなんだから。
…とかいいながら、全然持たんかった。情けない〜 もうイヤんなる。でもとりあえず、ポイントはつかめたような気がする。昼前に『荘子』を読みながら、畳んだ布団を枕に(お気に入りの姿勢)、切り立った山上を眺めて涼風に吹かれてたら寝てしもた。和尚さんに見つかって笑われて、それで起きて朝の残りのお粥さんをいただいたのだけど、その余韻覚めやらずか、もう眠たい眠たい。今まで幻覚と思っていたあの“寝ているかのような感覚”も、実は本当に寝てたんちゃうか?と疑いを持ってしまった。私のことだから有り得る…。(普段から眠り魔で、私にとって睡眠とは生きる糧♪) とにかく明日で最後なんだから、この実験で得た手応えを試して、今度こそ2時間持たせてみせる!
今日は私が来て一度も炊かんのもなんだと言って、和尚さんが五右衛門風呂を沸かしてくれた。気持ちよかった〜。やっぱりお湯はそれだけでサッパリする。体をゆっくり洗えたのも嬉しかった。何より火の匂い、煙の匂いの懐かしさ。4歳まで住んだ家の、あの頃の匂い。めらめら燃えていく松の葉や、昨日落とした銀木犀の枝の炎に変わる美しさ。陽の傾きかけた空の色と木造の家、煙突から立ち上る煙の筋と炎のハーモニーに、思わず見とれて立ちつくしてしまった。
夕ご飯はお蕎麦をアテに(信州出身の小僧さんが教えてくれた)、今宵も月桂冠を一杯、
二杯、あー三杯…。和尚さんが釜でゆでてくれたのに、ミョウガ、紫蘇、生姜に特製大根おろしの残りを入れて、蕎麦の茹で汁と醤油、カツオタタキのたれの残りも入れて(なくても良かったけど、とにかく捨てずに、あるものは全て活かすことを信条とされているのです、同感)食すと最高。あと卵も入れて、海苔を散らして。2人前も食べさせられた。でもちゃんと平らげた。お腹パンパン、でもこの上なくシアワセ〜。
そろそろ陽もすっかりくれて、さっきつけた蚊取り線香の匂いと畳、木の家の香りの入り混じったノスタルジックで落ちつく匂い。なんて幸せなんだろう。ゆうべのサシの夕食以来、和尚さんがぐっと身近になった気がする。それまでお互い様子見の探り合い…って感じだったかな? 和尚さんは、12番 焼山寺のふもとで会った幸月のおじいのようなインパクトや存在感はないけど、その代わりにずっと奥に静なる脈を持った立派な人。結構くだけてて、酒好きで、誰もいない時には転がってTV見てたり、面倒くさいから1日1食というズボラなところも、かえって親近感わく。でもって和尚さんは私のことを何故か「タケダさん」と呼ぶ。今日はゲストブックに住所と名前を書いたので、北村というのが判明したはずなんだけどな〜 でもどっちでもいいので何も言わずにお返事している。
ああ、ここにきて(時間的に)ここの居心地のよさがとっても良〜くわかったよ。小僧さんがしきりに言ってたり、ここを紹介してくれた人が言ってたのってこれだな、と。初めはそこまで言うほどか〜?って思ってたのに。夕食時に障子の向こうに見える切り立った山と木々と蒼くなった空のうっすら茜色を目にして、こんなに悠々とゆったり流れる時の美しさ、有難さをしみじみ味わった。もうお終いなんだなー 私にいつか子どもが生まれたら、その子にもこんな風景の中でぜひ日々を過ごしてもらいたい。それまで和尚さんはご健在やろか?
本当の豊かさってきっとこういうのを言うんやね。静かに穏やかに時の流れに身をまかせて。かまどで時間かけてご飯の支度をして、お風呂炊いて。日のあるうちに大体のことは済ませて、早寝早起き。溢れ狂う情報に泳がされることもなく、常に自然・じねんのまま。……成り行きとはいえ、こんなに貴重で心安まる時を過ごさせてもらえて、今後の私自身の在り方にもとてもプラスになると思う。不思議な縁だな〜 でもよかった。ああ酒が全身にまわって心地よい。今から少し坐禅して、今夜は早く寝ようーっと。(本当に7時には寝てしまった)