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![]() | のらくら遍路日記〜伊予(後)・讃岐/完結編篇 | |
北村 香織 |
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| 8月15日(水)晴れ (10番〜1番。Tちゃん宅) |
昨夜はTちゃんと枕を並べて眠り、今朝は一緒に起きて仕度をする。今日は1番まで歩いて、そこへ自宅から相方とギィやんが車で来てくれることになっている。どこかでキャンプでもするつもりでいたのだが、「ギィやんも一緒に離れに泊まったらいいから」とのTちゃん一家のご厚意に甘えまくることとなり、なので荷物は必要最低限、Tちゃんのリュックを借りて軽装で出発。お母さんにお弁当からお茶から用意していただいて、お父さんには10番さんまで送っていただいて、もう何から何までお世話になりっ放し…。
この日も私はお礼参り自体に乗り気がせず、10番、9番には寄らずに「歩く」ことを優先した。気を抜きすぎと言われればそうだけど、なんだかこの時はそういう気分だったし、ならば思うままに行くべきだ…と思って。9番の名物おばちゃんも今はもう境内のお店はやっていないと聞き、それも気の抜けた理由のひとつだったかもしれない。3年半は短いようで、何一つ変わっていないようでいて、でも実際には色んなものが変わっている。一番変わったのはやっぱり私自身なのかな…。まったく気負いがないせいか、足は軽いのに歩きがついゆっくりになる。のらくら歩きながらまたずっと考えていたのは、四国の皆さんのご厚意だった。昨日からのTちゃんご一家のご厚意も並々ならぬ手厚いもので、正直言ってなんで私ごときにこんなに良くして下さるのか…。最初の頃に比べて少しはお遍路さんらしくはなったかもしれないけど、でもまだまだ足りない甘さもあると思うし…。このご恩をどうやってお返ししたらいいのか迷ってしまう。なんか今いろいろ思いつく方法はすべて、今まで私が受けてきたご厚意とは次元が違う気がするんだもん…。それは単なるモノのお返しなんかでは決して表せないし、返せない。
8番さんからは遍路みち沿いということもあって、気が向けば札所に寄ったりもしてみた。よくお礼参り中は向こうから“以前の自分”が歩いてくる…と言う。時期的にこの辺りを歩いているお遍路さんはあまり多くはないようで、数人ちらほら見た程度だった。それでもやっぱりへばり気味の新人遍路さんらしき人を見ると、つい声をかけたくなってしまう。もう私には必要なくなるバンドエイドとか消毒液の類や、今まで貯まってしまったお接待の小銭など、『この人』と思える人に会ったらお接待しようと思っていたのだが、あいにく今日1日の区切り打ちの人だったり、声をかけたときの反応が明らかに迷惑そうだったりで、結局託す相手は見つからなかった。
2番さんへ寄ってみると、境内からとびっきりの笑顔でTちゃんが迎えてくれた。私のお遍路を応援がてら、お父さんと車でお参りに来ていたのだ。「先に1番さんで待ってるからねー」と言ってもらって元気回復、さあもうあと1つ。本当にあと1つで私の初めてのお遍路旅は終わるんだ…。見覚えのありすぎる門前が近づく。はからずも少しこみ上げるものがあった。結願の時よりは冷静だったけど…。人の込み合う本堂で合掌して感謝の念を心の中で唱える。納経してもらうと尼僧さんが褒めて下さった。振り返るとTちゃんとお父さんが「よう頑張ったね」と手を振ってくれている。その笑顔にじんわりとうれしさが心全体に染み渡ってくる…。Tちゃんとお父さんと一緒に大師堂へお参りして、私のお遍路はこれにて完了。Tちゃんがいてくれたお陰で晴々と終えることができました!
霊山寺にはとっくに着いていた相方とギィやんに2週間ぶりに再会。Tちゃん宅に一家でお世話になりに行く。お母さんが離れにすっかり何もかもご用意下さって、ギィやんも早速お家中を探検。Tちゃんもギィやんを気に入ってくれたようだ。この晩も格別あたたかい歓待をいただいて、本当に本当に素敵な一夜をありがとうございました。家族とともにTちゃんご一家とこうして結願、1巡完了の日を過ごせたこと、この終幕もまた私にとっては大事なことを改めて考えさせられる貴重な機会ともなり―――そして私のお遍路はまだこれでは終わらなかったのでありました………。
(H14.5.29/当時を回想して執筆)
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