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掬水へんろ館のらくら遍路日記〜伊予(後)・讃岐/完結編篇
北村 香織
第3日
8月5日(日)またまた晴れ。 (泰山寺〜今治・湯ノ浦)

 いつのまにか寝てた、といっても何度も夢を見ては目が覚める。3連発ですごい夢、面白い夢を見た。面白い夢というのは、社会人1年生だった頃私の教育係だった先輩が別の課におられて、この度の配置換えでまた私が彼女の下に異動になったという内容。こりゃまた今回のお遍路が新たな始まりを示しているってこと?きっと…。明け方からものすごく寝やすくなって、ハッと気がついたらうわっ、寝過ごした! 慌てて支度をしているところへセンドウさん登場。冷たい桃の缶詰を開けてくれ、一緒に1缶ずつ朝ご飯。おいしー生き返るー。甘ーいお汁も飲んで元気復活。昨晩なくした扇子のことを謝っておく。彼はちらっと悲しげな顔をした…。

 57番栄福寺の手前でチャリのセンドウさんに追い越される。彼は別のお遍路さんに缶ジュースなど色々お接待して回っているらしい。おばちゃん2人組が来られ、一緒にUP。が、出た早々道が二手に分かれ、彼女達は車道の方へ。私はひとり池回りコース。ヘビにも会わず、順調な滑り出し。でもそれは仙遊寺の石段で終わり…。雰囲気はすっごくいい。でも登りは半端じゃなく厳しかった。お寺にやっとの思いで辿りつくと、このままとても下れそうになかったので、きれいな宿坊?のような建物の食堂で休憩させていただいた。この日は信徒さん達が大勢来られてお祭りか何かの準備をされている。女の人が厨房でお昼を用意されたり忙しそうに立ち働く中、電源もいただいて携帯を充電させてもらう。お不動さんが丹原の辺りを道案内してくれるということで、連絡を取り合う手筈になっていたのだが、これでは今日はとても栄家旅館さんまで無理。ということを連絡すると、合流は翌朝に延期になった。1時間ぐらい休憩させてもらった上にお茶もたくさんご馳走になって、少し元気を取り戻して来た階段を戻る。道を確認しようとした時に、茶堂に作業のおじさんを発見、聞いてみると奥に女の子がいて教えてくれた。「私も一緒に行っていいですか?」と慌てて支度をされ、同行と相成った。彼女は大学生のIさんで、お遍路というより四国を歩きに来たとのことだった。室戸の海に憧れて、24番からスタートしたらしい。鎌大師で妙絹さんから私のことを聞いたが、1日差があるから追いつかないと思っていたと言う。彼女は連日40km以上歩いているらしい。この暑さでスゴイ…と思ったらまだ上がいるらしく、彼女が一緒に歩いたという東京の別の女子大生は50qなんてザラらしい。さすがに彼女にはついて行けなかったようだが、あるオジサンが毎日毎日一緒に歩いてくれて、心経も作法も彼に習った。でも今日はひとりで行くと先に出てきたと言う。すごくしっかりした子で、挨拶も笑顔もすこぶる感じいい。彼女が同行してくれたお陰で59番国分寺まで1時間で歩けた。ふたりともビックリ(彼女はこの日足の調子が悪かった)。Iさんは特にお参りはしないで、私がお参り、納経するのを待っていてくれた。同行の約束はここまでだったので、門前のアイスをお接待しようと二人で石段を降りようとした時、またまたセンドウさん登場! 棒アイスをお接待くださり、Iさんと3人で必死に食べる(すぐ溶けてしまう)。センドウさんは食べ終わるとゴミをポイッと草むらに放った。Iさんがすかさずお説教し、私も<きのう南光坊じゃちゃんと捨ててたやん>と言うとますます放る。Iさんは黙って拾って自分の袋に入れたが、背中がすごく怒っていた。「私、先に行きます」と発っていかれたが、センドウさんに本気で腹立ったんだろうな…。私はセンドウさんが行くまで少し一緒にいた。彼はおもむろに若草色の扇子を取り出し、くれた。「なくした言うとったろーが。これで最後ぞ」と去る。ひょっとしてこれを私に渡すために来てくれたんじゃ…。やっぱりいい人だよ、センドウさんは。もっと休憩しようと思って絶好のポイントを発見。そこでしばらく涼風を頬に感じながらぼーーっと青すぎる空を眺めている所に、ものすごく日焼けした半パンのおじさん遍路がやって来た。<あ、Iさんが言ってた方?> 向こうもさっき下でIさんに会って私のことを聞いたらしい。少し話をして別れた。充分休んだし、いい加減行かなきゃとUPした途端、門前のタオル屋さん(行きしにミニタオルをお接待下さった)がアイスクリームのお接待。あーっと思う間もなく引き入れられて、有り難くいただく。食欲はゼロだけど、冷たいものなら入るんだよね。若いご主人に宿情報とか教えてもらっていると、Iさんとさっきのおじさんが手を振りながら前の道を通って行かれた。私はひとりで行ける所までコツコツ行こう。

 国道に出るとやっぱりキツい。炎天下の中へーろへろ歩いていると、道端でIさんとおじさんが休憩していた。Iさんはうずくまるような感じで、相当足が痛いみたい。私もそろそろ宿を決めないといけないのだが、東予市に入ってしまうと10kmぐらいは先へ行かないと宿がない。10km歩ける自信はないな…。でも明日は難所の横峰さんだし、少しでも近くまで距離は稼ぎたい。でも…と決めかねながら歩く。が、道の駅まで来ると余力がほとんどなくなってきた。よし、この近くで今夜はしっかり休んで、明日は復活して頑張ろう。そう決めて宿探し。運良くビジネスホテルに予約が取れ、お不動さんに電話を入れる。明朝この道の駅まで来てくれて、一緒に横峰さんに登ることに。松山から車で来るって何時に出るの? ここまでしてもらっていいんだらうか…って気もあるけど、でもやっぱり嬉しい。ホテルに着くと、お風呂はまだ準備中だけど数メートル離れた本館なら入れると言われ、本館に行く。ついでに夕食も近くの温泉施設が食堂も併設しているというので寄ってこよう。洗濯機をその間に回し、だから浴衣に下駄、ホテルの傘を日傘代わりにさして…というものすごい格好で表を歩く。先に食堂に行ってアツアツのおうどんを食べた。外のテラスでおっちゃんが飲んでいるビールがおいしそう…。でも即効回りそうだからやめとこ。お風呂は貸切で気持ちよかった。別館に帰って洗濯物を干す。部屋の窓からは海が広がり、景色が最高。暮れゆく色合いがとってもうつくしかった。京都の遍路妹(お不動ファミリーでは私は長女。)カモさんから電話。61番から逆打ちで横峰さんというコースは、お不動さんと同じく反対された。そんなにキツいの…?とちょっとブルー。ま、でも今夜しっかり寝て、明日は頑張るしかない。お不動さんもついてくれることだし。

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