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掬水へんろ館のらくら遍路日記〜番外篇:石鎚山の布石
北村 香織

 前回第5次の区切り打ちで、松山からサポート同行して下さったお不動さんと今夏、石鎚さんに一緒に登ろうという約束をしました。お盆休みは第6次のお遍路旅に充てたいと考えていたので、7月の海の日からの3連休で行くことになりました。お不動さんが「ぜひ旦那さんも、ギィやんも」と言って下さったので、私自身も相方(ダンナ)には一度直接お不動さんに会って欲しいと兼ねてから思っていたこともあり、かなり人見知りな方の彼を半ば強引に連れて行きました。1人で留守番させるわけにもいかないので、ギィやんは当然強制連行…。

 それより先、私が第5次の区切り打ちを終えた後、カモさんが結願を果たしたのを祝す集いを開き、それに3月お不動さんが私と同行する前に同行していた男の子(カモさんとも同行していた)が参加してくれました。私と彼とは「初めまして。お噂はかねがね…」だったのだけど、初対面の2人とは思えないほど自然に、お互い馴染んでいました。この日から私たち関西3人衆はカモさんが2人にそれぞれ贈ってくれた横峰寺のお鈴(カモさんのはお不動さんより贈られた)を会員証に、「お不動さんファミリー」「お不動の会」なるものを勝手に結成(?)したのでありました。その男の子―――本人は嫌そうでしたが阪神(現在は米大リーガー)の新庄くんに似ているので、「のらくら――」ではシンジョー君とさせていただきます―――シンジョー君がちょうど同じ頃に松山のお不動さんを訪ねるという偶然も重なり、急遽彼も一緒に石鎚登山に挑むことになりました。

7月20日(金) 晴れ 「はじめての家族旅行?(byギィやん)」

 この日の予定は石鎚山系の山小屋まで行くだけで、実際に登るのは翌日朝からになる。私たち一家は相変わらず当日になってバタバタ荷物を準備し、遊びに行ってなかなか帰ってこないギィやんを捕獲して車に乗せ、運転席や助手席のシートのヘッドレストにまたがって(車に乗るときの彼のスタイル。人の肩にすわり前足をヘッドレストにかけて後方を眺めるのが大好き。)、ブーイングの嵐の彼をなだめたり無視しつつ、山陽道から徳島道を経て松山に向かう。途中思いがけないような場所で何度も渋滞に引っかかりながら、お不動さんとシンジョー君の待つインターには3時を過ぎて到着。土地鑑も下調べも何もない私たちは、石鎚さんがどこかも何時間かかるかもサッパリわからず、ノーテンキにお不動さんの車について行くだけ。松山から見覚えある久万を抜けて、どんどん高度が上がっていく。お不動さんもだけれど、愛媛の人のドライビングテクニックは見ているだけでコワイ。(たまたまこの日見た人だけならいいんだけど。)「伊予の早曲がり」についてはよくお不動さんが話してくれるけど、それ以前の問題じゃない…? 

 石鎚スカイラインに入って雄大な景色にオーッとなりながら、スカイラインの終着点に到着。ここから瓶ヶ森という山の方へ、舗装はされているけど狭い道路を行く。駐車場に着いた頃には5時を回っていたか? テントなどの荷物を持って、ここから山小屋へは歩かないといけない。1度歩くと大した距離ではないが、初めて歩く時は異様に長く感じる。熊笹か何かが膝丈のところでキレイに広がって、パノラマがすごい。ギィやんは専用リュックに入れられて、ダンナの背でビクつきながらもまんまる目には好奇心いっぱい。山小屋は元ワンゲルの私には懐かしいかなり本格的な外観だけど、中は古い民家のような、とても落ち着く和室。無骨で旅館のようなアメニティはないけど、だからこそ落ち着くところもあるんだよね〜。

 今日は到着が遅かったので急遽小屋泊まりになったのだが(皆さんゴメンナサイ)、明日の晩は小屋の外にテントを張ることになるので、お不動さん、シンジョー君、うちの相方が駐車場に荷物を取りに行くことになる。私はギィやんのお守りを仰せつかり、のんびりお気楽なもの。ギィやんはとにかく好奇心だけは猫百倍(?)なので、部屋のあちこちを探検しては鼻を突っ込み、ジャンプしては覗き、そしてようやくお布団と毛布がキレイに畳まれて積んであるその真ん中に、飛び乗って1周するなり丸くなって寝てしまった。守り役は御免になったので、私はカモさんに電話を入れる。実はカモさんは明後日松山にやって来る手筈になっており、これはシンジョー君には伏せられている。というのはお不動さんお得意の「ビックリ大作戦」で、今回の計画は彼女とお不動さんと私、相方の間での秘密協定なのである。明後日彼女と落ち合うための打ち合わせをして、電話を切ると間もなく男性陣が戻ってきた。お不動さんはたっくさんのお菓子や飲料水の差し入れを持ってきて下さっており、ちょっと恐縮…だって私たちなんか全く何も用意して来なかったもん…。

 お夕食は階下で泊りの皆さんでいただく。すべて1人で切り盛りしている小屋のおっちゃん(マスター)お手製の品々はどれも絶品。何とこのおっちゃんは大阪で仕事を持っていて、週に何日かは大阪まで通勤しているのだそう。さすがにこの2重生活は大変で、山小屋の方はやめようと思ったこともあったのだとか。そんなタダモノではない風貌には、だけどとても柔らかみがあって程よい渋さも漂う。飄々としていていい感じ。

 さて明日はいよいよ石鎚さんだ…。ギィやん背負っての登山はど〜なることやら…だけど、麓から登るわけではないので何とかなるか。あ〜楽しみ。

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