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掬水へんろ館のらくら遍路日記〜土佐Vおよび伊予/菩提道場前篇
北村 香織
第8日
5月6日(土)曇り (ガーデンタイム〜44・45番〜ガーデンタイム)

6:30起床。朝食が7時だか7時半だかわからなくなって、コールを待ってみるも35分になったので行ってみる。と、すぐにおばちゃんが用意してくれた。8:05UP。今日は44番から45番を打ってまたここへ戻ってくるので、荷物は必要最小限。時間的にも余裕があるので、ついのんびりしてしまう。歩き出すとすぐ隣の旅館から例の夫婦遍路さんが出てこられた。「また会いましたねー」と挨拶を交わす。

 太宝寺までの1.2kmは思ったより感覚的に遠い。参道も柱からして立派な入口からかなり長かった。8:20、44番太宝寺着。山門の大草鞋が圧巻。本堂で心経をあげんとすると携帯が鳴る。お不動さんからだ。「今どの辺?」という確認。<?>。45番への道が少しわかりにくくまごつくが、納経所に聞きに行くと、おばちゃんが老人のお遍路さんに一所懸命いろいろと解説していた。妙に断定口調で私はなじめず、結局聞かずに地図を頼りにUP。背負子の大きなザックを背負った中年男性とすれ違う。何か空気の重そうな人で、声をかけることを思わずためらってしまう。山を1つ越すと車道に出、その先の集落が河合。休憩所のようなところに差し掛かった途端また電話が鳴り、お不動さんがその先にいると言う。<えーーっ!> 住吉神社を曲がるとニコニコと手を振ってはる。いやーウソー、なんで…?って感じだけど、素直にうれしい。お不動さんの道案内で山道を行く。私より一足先に松山入りしたカモさんの状況(当然彼はカモさんの前にもお接待品を持って現れていた)や、マムシの話なんかで和気あいあいと歩むので、全然しんどくないし足もまったく痛まない。前回の同行の思い出話にも花が咲く。喫茶店で見た石鎚山の写真の話にも触れ、「夏はぜひ旦那さんとギィやんも一緒に石鎚さんへ行こう」と言ってくれ、私もすっかりその気になる。八丁坂、槙谷分岐で写真を撮って下さった。私は最初の区切り打ち以来カメラの類は一切持って歩かないので、こういうご厚意は大変有り難いしうれしい。これはお不動さんも自身がお遍路中に撮っていただいた実体験から、その有り難さ、うれしさをよーくわかっているからこそ。特にお参り中や歩いている時の後姿は、彼のようにカメラを持ってまわっている人でも貴重な写真だもん…。お接待を受けて、その時の自分自身の気持ちを、こういうふうにまた別のお遍路さんに伝えていける素晴らしさ。私も1巡おわって、そんな機会に恵まれたらぜひそうしたい。

 11:30、45番岩屋寺着。私たちの取ったルートはちょうどお寺の裏山から入ることになり、お寺の近くになるとものすごい岩壁がごーろごろ…。一遍上人が修行したという鎖の行場は入らなかったけれど、見ただけでもそれは凄まじい迫力で、霊域の匂いを感じる。境内の雰囲気も、今までのどこの札所とも違う重みと神秘さが漂っていて、私はすっかりKO、とてもとても気に入ってしまった。またお不動さんの案内で巌の中のお堂も拝見。本当に真っ暗で、お不動さんがお杖の先に蝋燭を灯けて先導してくれる。ここも本当に来れてよかった。私1人で来ていたら、絶対知らずに通過していただろう。

 納経してもらうと、納経所の奥さんが「歩き?お昼は持ってる?」と聞かれたので<はい、持ってます>と答える。昨日お不動さんがいっぱい差し入れしてくれたので充分。お不動さんは木造の休憩コーナーで待ってくれており、横に腰掛けた中年男性のお遍路さんと会話している。44番で見たあの人だ…。私も挨拶しながら腰掛ける。途端にすごい雨になり、男性は大きなザックの雨支度に手間取っている。お不動さんは人懐っこい彼らしさ100%で、この人(ハジメさんとする)にお遍路のきっかけや何かを聞き始めた。ハジメさんは俯きかげんで言いにくそうに、でも意外にさらりと答えてくれた。なんでも離婚の過去があるらしい。私もしんみりとしてしまって何も言えなかったのだが、お不動さんは違った。「ほぉ〜そうですかー。やっぱり別れる時は家屋敷は嫁さんにやらんといかんですかー」ふぉっふぉっと屈託なく笑いながら、ほとんど感心している様子。これには私ばかりかハジメさん自身が意表を突かれた、みたいな感じで、なんだか全員なごんでしまう。さすがお不動さんマジック。すごい、見習いたいわ…。

 そこへ納経所の奥さんがハジメさんにお膳を持って来られ、お不動さんと顔をあわせた途端お互いに「あっ!」。お不動さんはここ岩屋寺ともご縁が浅くなく、前回彼がまわられた際にもこの奥さんとはゆっくり話す機会があったそうで、すっかり顔見知りだった。奥さんは急いで私たちのお膳を用意してくれようとなさり、私もお不動さんも必死に辞退、結局1人半前のお膳をいただくことになった。やさしいダシのにゅう麺。2種類のおにぎりとお漬物をお不動さんと分け合っていただく。ハジメさんも打ち解けた様子で会話も普通に交わし、でも大雨の中一足早く発って行かれた。納経所にお膳を下げに行くと奥さんはおられず、呼鈴を押すと住職さんが出てこられた。そこへ夫婦遍路さんが来られたが、彼らには昼食のお接待はなし。ううーん複雑…。これもお不動さんパワーなり?

 雨が小降りになって私たちもUP。さっきの大降りがウソみたいに合羽がなくても大丈夫。今度は行きと違って表参道の方へ下る。立派な石垣が崩れかけており、これは3月の安芸灘地震の影響とか。本堂や母屋がよくご無事だった事…とお不動さんと感嘆した。車道に出ると奇岩がすごい。古岩屋荘のところからまた山道に入ると、思いがけず不動明王のお堂を発見。小さなお堂の中には明王像は見えず、キョロキョロしているとなんと、川向こうの岩洞の中にそれは大きなお像がどーんと仁王立ちしており、これには2人とも大喜び。お不動さんはそのアダ名の通りもともと不動明王にご縁のある人だけど、彼といると私もあやかっているのか不動明王さんに多少のご縁を感じてしまう。この道は八丁坂に続いていた。行きしにお不動さんが描いたマムシの絵がしっかり残っていて2人で笑った。

 ふるさと旅行村でお茶タイムにする。そこでまたお不動さんの新たな、そして今までよりもっともっと深い一面について知ることができ、私は改めてこのご縁に心の奥で感謝したのだった。私が彼とお遍路によってご縁を結ぶこと。前回会って以来お不動さんは常々偶然(ご縁)の必然性を言われており、50%ぐらい?は感覚的にわかる…というか≪そうかも≫程度には感じていた。でも柏坂での雲海とコインとの出会いも含めて、今回の旅ではそれをもっと実感しているような気がする。ここでお不動さんのお話を聞くことで、グッと何か“大いなるものの意思”をより近く感じるような気もしてきたし…。彼とのご縁は私にとって必然だったんだと思う。

 住吉神社からお不動さんは車で戻って行かれ、私はひとり車道を歩く。久万美術館、覗いてみたかったけど、閉館時間で見られなかった。次のお楽しみとして取っておくことにして。今日はとにかくお不動さんと半日以上の時間を共有できただけで幸せ。お久万大師堂に寄ってお礼を言う。5:30ペンション着。今夜はレストランがお休みだそうで、結局お昼食べなかったパンと果物、昨日のゆで卵のお接待の品々で充分すぎるお夕食。返って好都合だった。

本日の歩行距離: 24.7km
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