のらくら遍路日記〜土佐Vおよび伊予/菩提道場前篇 | ||
北村 香織 |
| 5月5日(金)曇り(サンプラザうちこ〜ひわた峠〜ペンション・ガーデンタイム) |
一番乗りで朝食をいただいて、7:10、またも受付けの方に心温まる励ましをいただき、気分よく元気モリモリでUP。下の駐車場で昨日のネコを探すも見当たらず、朝ご飯のお魚を少し彼(女)のためにお持ち帰りしたのを散らばっているお弁当の空箱に入れてきた。蟻さん横取りしないでねー。
内子の町はなかなかハイカラで、歩きながらあちこち目が向くので楽しい。でも古い町並を抜けて、川沿いをひたすら上流に向かう道になると単調で長ーい。今回の旅はいつになくアスファルトが足に堪える。特に足の裏、膝にとっても負担を感じる。1日の距離もいつもよりは長めだし、わりと札所間も長いからかな。ログハウス風のバス停を見つけて休憩していたら、逆の方からお鈴の音がする。一見してすぐに“職業遍路さん”とわかる風貌で、前歯の欠けた笑顔がなかなかカワイイおじい。挨拶を交わすと隣に腰掛けて、何も聞かないのに積極的に説明してくれながら、取り出した白衣に書かれた文字をマジックでなぞり出す。彼は「寄書きのマツ」という有名人?らしい。口癖は「アハーッ」、自分の頭を片手でペシッとする仕草がまた憎めない感じ。ずっとお四国を回り続けておられ、何らかの理由でお遍路できない人に白衣に寄書きしてもらいながら代わりに回っているとのこと。そんな方はたいていお布施してくれるので、それとお接待でやっているみたい。そういえば荷車みたいのに生活用具やお接待品を積んでいる。食べるものがなければ山菜や筍を摘んで食べるし、札所のお供え物を「くすねる」ことも。これは「あり」なんだそう。とりあえず持っているもので少しはお接待になりそうなビスケットと抹茶の粉末をあげたら、実にうれしそうに笑って受け取ってくれた。こんなのでそこまでの笑顔は、今どき小学生でも見せてくれないかも。やっぱり「人の情けで生かされている」っていう意識は現代人に一番必要なものなのかも知れない。マツさんの口からは次々とテンポよく話が繰り出され、なんかオモロイので発つに発てなくなった。でもこういうのが歩き遍路の醍醐味の1つだと思っているので、流れにまかせて自然に別れの時が来るまでこのおじいとの時間を楽しもう。他にも本当にいろんなエピソードをおもしろおかしく話してくれ、中でも四国各地のゲイの話は傑作だった。最近はゲイさんが野宿のお遍路さんにお金をちらつかせて迫ってくるんだそうで、相場が高いのは徳島(6000円)で低い高知は2000円だそうな。野宿遍路の男性ご用心!
と、そこへ1人の白衣の男性が現れ、缶詰を2つお接待して下さった。「1つずつ食べて下さい。」すかさず私の分はマツさんに差し上げてしまった。この男性、なんと以前この「のらくら――」を読んでメールを何度か下さった方で、「やっぱり北村さんだ。すぐにわかりましたよ」と言われた。私の方は全然わかりませんで、しかも折角私にといただいた品をマツさんにあげてしまって、その節は失礼しました。でも何ていうか、お遍路中に知り合いに会うのは恥ずかしーものです。この方とはそんな知り合いというほどではなかったけれど、でもやっぱり「のらくら――」からある程度私の人間像はバレてるし…。普通の旅先ならむしろ喜ぶはずなのだが、やはりお遍路中は、私としては完全に非日常・深層の世界に来ているつもりなので、なるべくお四国の結界内でのご縁のみにどっぷり浸りたいという思いが強い。だから家族はちょっと別だけど、道中はどうしてもつい携帯電話やメールも疎かになってしまう。もちろんこの方のご厚意はうれしく、日常ではメールでしかやり取りのない方とこの四国でお目にかかれたご縁は大事に思っています。
このお接待がよいきっかけとなって、ようやく私は先へ進むべく腰を上げた。マツさんと共有した時間はなんと1時間。ここからは少しペースを上げないと。小田川は深いグリーンで、水が澄んでてキレイ。でも景色はあまり変化がなく、坦々とアスファルト道が続いて、長い長い長い。足イタイー。やっとの思いで突合に着き、商店先で休憩しているとお店にテレビ局の取材陣がやって来た。すっごいローカルな普通の商店にしか見えないけど、何か名物でもあったのかな?
突合からは順打ちコースで落合大師堂からひわた峠へ向かう。ひわた峠までも本当に長ーい道のりだった。春にお不動さんに会った時、彼は1日の距離は20kmほどじゃなかったっけ? それが今回の私の日程、3日目以降はお不動さんが歩いた日程そのままだが、連日当たり前のように30km以上ないか? 精神的に辛くなるとつい≪お不動さん、どーしちゃったのー≫と内心叫んでしまう。なんだか今日はずーっと似たような風景の中、似たような道をえんえん延々ひたすらひたすら、何も考えず歩いてきた気がする…。
久万町に入って、山道に入る直前の民家でゆで卵を4ついただいてしまった。ちょうど若夫婦一家がお爺ちゃんお婆ちゃん宅から帰ろうとしている矢先に私が通りかかり、一家のおやつ?の卵を下さった、みたいな感じだった。私はかなり疲れていて頭が全然回っておらず、ぼ〜っとしたまま受け取ってしまって後で少し後悔。辞退するか、せめて1個だけにすべきだった…。まだ小さいお子さんも車に乗っていたような気がするし、4つも食べれない〜。とか思いつつ山道の脇で2ついただく。ほっくりした味でおいしかった。
ゆで卵で元気復活、ひわた峠に向かって高度を稼いでいく。途中で時々舗装道になるが、やっぱり山道は足腰に全然ちがう。でも登りはキツいことはキツく、へれへれ登っていると向こうから下ってくる人影…。ん?あの輪郭は…? <あーーーっ、お不動さん!> なんで?! 今度は私がビックラたまげる番だ。前回同行のきっかけとなった出会いのことを、いつも彼は「あの時は本当にたまげた」と言われるけれど。今夜のお宿まで松山から来て下さったものの、私の到着が遅いので心配してお迎えに来てくれたのだった。なんて絶妙な登場…。まさに救世主さながらで有り難すぎる。山の中はすでに薄暗くなりかけていて、卵パワーで少し元気回復してはいてもやはりちょっと心細かったし、何よりお不動さんに会うと全身に不思議な元気パワーが回る。前回私がお不動さんと別れてからの彼の旅の話や、数々のエピソード、前回同様ユングの話なんかをしながら、私の足取りはすっかり軽く、17:00、ペンション・ガーデンタイム着。感じのいい造りで気に入ってしまった。お不動さんはたくさんのお接待を差し入れして下さって、明日のコースについて少しアドバイスもくれて、車で帰っていかれた。
さっそくお風呂をいただき、足中に湿布を張ると気持ちいい〜♪ しかし浴衣の裾に湿布がくっついたりして苦労もした。そもそも足がまともに動かない上にこれだもの。階段や廊下に知らぬ間に落としていたりして、冷や汗ものだった。それにしても伊予の山は阿波や土佐ともまた違った趣きで、どっしりでかくて深い。歩きやすいけど…。今回の旅をふと振り返って気付いたこと。この度は特に水(雨)と山に異様に身体が喜ぶ。山に入るといいことが起こるし。水も山も森も、どれも深層心理学では無意識の象徴。これは何か意味しているのだろうか…。
本日の歩行距離: 35.7km