掬水へんろ館目次前日翌日著者紹介
掬水へんろ館のらくら遍路日記〜土佐Vおよび伊予/菩提道場前篇
北村 香織
第4日
5月2日(水)またまた雨(ホテル・サンパール〜柏坂〜ホテル・アイリン)

4時半にふと目覚めるともうどしゃ降り。何か夢を見ていた…今回はよく夢を見る。従業員の方々の気持ちのいい応対に感謝して7:15UP。ザザ降りもここまでくると、むしろ楽しい。大型トラックに水撥ねかけられても、<うきゃーーー!>とか<なんやねん、もっと気ぃ使って走らんかい!>とか大声で叫んでは、ひとりウハウハしていた。山の端に雨のカーテンがかかっているみたい。まるでカナダ・イエローナイフで見たオーロラのように、濃い緑を透かして煙りながら揺れている。山の結界を守ってるかのよう―――。 

 9時半、DE・あ・い21という公民館のようなところで休憩させてもらい、職員さんに柏坂の状況を聞いてみる。「まあこんな雨だから国道を行った方がええとは思いますけど、でも通れんことはないですよ」とのこと。しばし迷って、でもやっぱり後悔はしたくないと柏坂ルートを行く。と、雨が小降りになった。これはもう行けってことでしょう。

 が、が、登山道になるとなんと道が沢と化している。最初の方は普通に雨水がチョロチョロ流れる程度だっただけに、中腹まで登ってこんな沢登り状態になっても引き返すのも勇気がいる。基本的には沢は大好きなので、思い切って突っ込んで登って行く。こうなったら楽しい! 登りのしんどさはほとんど感じず、木々の黒々とした幹と緑を映えさす白い霧に、まるで夢幻の世界に誘われたよう。でも柳水大師からまだ登りが続くとは思っていなかったので、ダラダラえんえん続く道にはうんざりきた。ぶーぶー言いながらも登って行くと、ふいに視界が開け、そこには雲海と凪の海に浮かぶ佐田岬と島々の影…。大絶景に思わず息を呑み、歓声をあげた。そしてそこから少し行ったところで、今度はふと泥まみれのまるいモノを拾った。私はお遍路ではよく落ちているものに目が行くが、この時はいつもとは何かちがって、本当に吸い寄せられるように自然に手が出て拾い上げてしまったのだ。歩きながら何やろ〜と指の腹でゴシゴシしてみると、泥色の文字がうっすら浮かび、なんとそれは大正時代のコインであることが判明した。形からそうかな程度には思っていたものの、まさか大正時代のものだなんて…! その瞬間、なんかものすごい布置を感じてしまった。だって私の前にはそれこそ何百何千人ものお遍路さんがこの道を歩いているんだし、なんでよりによって今、この時に私の目の前に存在して、しかも私は拾ったのか。どう考えてもこうなることが、何か大いなるもののはたらきの成せる業って気がして、これだけは野仏さんにもお供えできず、今も持ったまま…。お不動さんからいただいた石笛とともにすっかり私のお守りとなっている。本当にあんな文句たれやのに、雲海を拝ませてもらった上に、歴史を刻んできたコインまでもらえるような人間じゃないんだけど…。申し訳なさがじーーーんときて、どこかで自分も返さなきゃ、という思いが同時にこころに重みをもって陣取った。

 山から里に下りるとまた雨。おばあちゃんと話したり、別のおばあちゃんに近道を教わったり。橋を渡るとシゲルちゃんとバッタリ。シゲルちゃんがお接待されたおにぎりを、お弁当持ってるからといただいた。少し同行したけど、私はこの日の宿がもう近い。時間的に相当余裕があるので、久々に喫茶店に寄ってゆっくり休憩する。さっきいただいたおにぎりがあるので、デザートでも頼もうとケーキをオーダー。マンガ読んだり日記書いたりして1時間半ぐらいお世話になった。濡れたジャージが冷たい。15:30ホテル着。

 4日にテントを送らせてもらう旨、もう一度確認しておこうと先方に電話を入れると、なんと「テントじゃあんまりなので、特別にお部屋を用意しますから」とのお言葉。留守を守っているダンナに電話して、幸い出したての荷物の配送も止めてもらえた。何というサポート…。私はとんでもない果報者です…。

本日の歩行距離: 23km
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