昨夜は寝つけなかった。今回は一念発起?で旅の初めから般若心経を暗記しようと目論んでおり、フェリーの中とか道中でも口ずさんでいたので、眠れないにまかせて「羊が1匹…」の代わりに使ってみたり。明け方目が開いた時も外はどしゃぶりの気配。でも山本さんにお別れを言って歩き出したら、少し雨脚がましになる。緑がしっとり続き、それが目に新鮮に映っていたのもつかの間、じきにだんだん同じ風景に飽きてきた。真念さんの碑があり、へんろみちの標示もあったのだけど何か方角がおかしいので迷っていると、軽トラのおばちゃんが教えてくれた。小さな集落(宗賀)でパンと缶コーヒーを買って、バス停で休憩。船ヶ峠は勝手に峠とうげした所とイメージしていたせいで、普通の坂道なのを怪しく思って行きつ戻りつしてしまった。しばらく行くとダム湖があり、公園などなかなか整備されている。深い緑が美しかったけど、雨がまた強くなり、疲れも溜まってきてヘロヘロしてしまう。ずーっと山村の似たような景色の中、雨も降って人通りもなく、いい加減変化が欲しい〜と思っているとR56に出た。一瞬うれしく思ったが、やっぱり国道は鬱陶しい…。また歩道が狭く、トラックでも通ろうものなら頭から水撥ねを浴びせられる。これじゃあ食堂や喫茶店で休憩しようにも、ずぶ濡れで気後れしてしまう。でもそろそろ限界やしな…。と思っているところへまたもナカムラさんの軽自動車が。「いやーまたええとこで会うた」。言外に「乗って行かんかね?でも断るやろうな…」というのが滲み出ていて、申し訳なく思いつつも先に行って待っていてもらう。それで例の如く心身ともににわかにパワーUP、距離もたいしたことなくてすぐに39番延光寺到着。
ナカムラさんとはお約束通り、ここで私のお参りするところを撮影してもらう。覚えたての般若心経、妙にカメラを意識してしまって途中からこんがらがってしまった。ダメぢゃーこんなんじゃ全然修行がなってない。これまでの道中はいったい…と情けなくなる。でも気をとり直して、ナカムラさんのご健康とお不動さんの心願成就とをお祈りした。一通り境内を案内してもらいながら撮影も終了して、さて今夜のお宿は国道沿いの健康ランド。ナカムラさんの寂しそうな願いのこもったような目を見て、最初で最後の?ナカムラ号のお接待を受けることにした。その時のナカムラさんのうれしそうな目に、お受けしてよかった、と心から思った。
健康ランドの駐車場で、車中で初めてナカムラさんのご家族やお仕事のことなどを聞いた。前回お会いしてからほんの数回の短い時間なのに、数々のご厚意を示して下さり感謝申し上げると、何だかその倍ぐらい感謝の念を返して下さってビックリ。私はご厚意に甘えるだけで、なんにもしちゃいないのに…。「昨日も今日もちょうどええ所で出会えて、あなたこそお大師さんや」なんて勿体無さすぎることを仰る。しかも別れ際握らせて下さったお接待は、なんと5000円…! さすがに辞退申し上げたのだが、頑として握らせて下さるのでいただいてしまった。去っていく軽自動車をお見送りしていると何だかじーんときて、急いで健康ランドに入る。
まずは荷を下ろし、ザックカバーを取ってびしょ濡れのカッパを脱ぐ。上がるまでに結構手間がかかるもんだ。館内にいた小学生の男の子2人が好奇心いっぱいな視線をこちらに向けている。やっと受付で料金を払い、荷物のところに取って返すと、彼らが後をついてきた。「おねーさん、旅人?」。思わず微笑んでしまう。兄弟らしき彼らは私の笠とお杖にすっかり興味を奪われたようで、触ってみたりしている。「これ昔の人がかぶるやつ」<んーこれはねぇ、お遍路さんの道具やの。お遍路さん知らへん?> 2人はかぶりを振る。高知の子のようだけど、遍路コースからは離れているのかな? 「お金持っちょるん?」と心配までされてしまった。タハッ、ここに泊まること自体ビンボー旅ではあるけど、一応それなりの用意はしてきたからダイジョーブなのだ! 「ねぇ、なんで“やろ”って言うん?」とかなりオモロイことも聞いてくる。とにかく心ほのぼのする一期一会であった。
お風呂でさんざん温もった後、浴場のロッカー室と特別に受付脇に物干しをお借りしてカッパやら濡れたものを干させてもらい、休憩室でマンが読んだりして時間をつぶして、女性専用の仮眠室のボンボンベッドを1つ拝借。誰がそうだかわからないけど、お遍路さんも何人かいる様子。案外すーっと寝入ってしまった。