掬水へんろ館目次前日翌日著者紹介
掬水へんろ館のらくら遍路日記〜土佐・修行道場篇 (本篇U)
北村 香織
第7日
3月22日(木)晴れ

5:30起床。夢を、それも3連発で見た。それぞれすごく意味のありそうな夢で、やはり今回の遍路の旅は、私にとってターニングポイントかもしれないと思う。6:40 UP。まだママさんもお見えにならないようだったので、そうっと出、一礼して歩き出す。いよいよ四万十川だ。後川の堤防をずっといけば、やがて四万十川と合流してひとつの流れになる。風がとても冷たく、堤防で朝ごはんのパンをかじる数分で凍えそう…。四万十川大橋のたもとで、ワゴン車に乗った作務衣のおじさんから小さな袋をいただいた。見れば「遍路は道中にあり 無理せずにがんばろう」と書かれてあり、中には数種類の飴と150円、納札が入っていた。そのお言葉を噛みしめて歩こう。

橋から見る四万十の流れは壮大で、雄々しきその姿はゆったりと海に向かう。それを見つめていると、すぃーーっと吸い込まれて、四万十川の一滴として同化してしまいそうな錯覚になる。つい人魚姫のことを考えてしまった。悲劇っぽく書かれるけど、海の藻屑になるのって実は幸せなんじゃないかって。。。私の「癒し」のイメージっていうのはこんな感じなんです。

伊豆田トンネルの手前で休憩中のトッポさんにバッタリ。このトンネルは1.6キロもあって、入る前からすでに排ガスが鼻につくという、未だかつて経験のない最悪トンネル。

コンタクトを入れた目に塵が入らぬよう、例の如くサングラスをかけて挑む。すごく辛い20分間だった。でもこれを抜けると土佐清水市。猫談義から輪廻転生の話まで、足の辛さも忘れて進む。11:50 安宿にて昼食。お店の方々が口々に情報を教えて下さる。今日は私がトッポさんにお接待。お買い物に寄るトッポさんとはここでお別れ。

ひとりになると、急に暑さと荷物の重さが意識に上ってきて気分が下がり気味になる。が、大岐浜が眼下に見えるとどこへやら、海と砂浜のあまりの美しさに跳ぶように降り、はまみちを行く。ちょうど干潮で、海風が気持ちいい。砂が巻き上げられ、風紋ができている。砂の感触もひりひりする足の裏にはやさしい。きれいな貝殻や石がたくさん足元に打ち上げられている。オレンジに近い茶色と白の縞々柄の巻貝を見つけ、拾った。そういえば20年ほど前、家族で足摺に旅行に来たときも、貝を拾ったっけ…。と遠い日々がふと近くなる。なんともいえない海の青。南国らしいエメラルドグリーン。上から見る大きな海も好きだけど、手前で横から見る海もいい。少し高くなった波が頭をもたげて出来るその隙間に、すっぽり入ってみたい。少し浜辺で風に吹かれながらウトウトしたかったが、寝入ってしまいそうでUP。遍路みちが分かりにくく、打ちっ放しの練習をしているおじさんに聞いた。小さな流れ(ひいているから)を丸木を渡って、岸壁(のように思えただけで全然)を登る。山の感じが少し今までとは違う気がする。歩き遍路さんが前から後からちらほら。春だなぁ、と思う。

15:30民宿星空着。素泊まりでお願いしたにも拘らず、あてにしていたお店が定休日で、おずおずとお夕食をお願いした。全然嫌な素振りひとつ見せずに、即快諾して下さり、この宿に泊まれることを感謝した。お昼前に電話を入れたときの応対もとても好感が持てて、おじさんもおばさんもお顔からそれがあふれ出ている感じの方。持ってきて下さったお茶も、インスタントのコーヒーとチョコレートが添えられており感激。ほんのちょっとした心遣いで、人はこんなにやさしさを感じることができるんだな…と教わった。お風呂とお洗濯とをいただいて、お夕食はまた見たことのないお魚が丸ごと1尾、おばさんがさばいて下さったお刺身、ツワブキと薩摩揚げの炒め煮など数品のお皿が、京都で言うおばんざいみたいな、素朴で普通で栄養バランスも取れて、しかも最高においしい。今まで30年近く色々食べた中のベスト3に確実に入るおいしさだった。量はあまり食べられない…とあらかじめ告げた私に、「毎日歩いてるんだから食べなだめよ」と本気でおっしゃって下さったのも嬉しくて、頑張って全部食べた。お腹がいっぱいすぎてはちきれそう…でもシアワセ。

本日の歩行距離: 31km(12146歩?)
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