掬水へんろ館目次前日翌日著者紹介
掬水へんろ館のらくら遍路日記〜土佐・修行道場篇 (本篇U)
北村 香織
第6日
3月21日(水)晴れ

5:00起床。6:10 UP。まだ薄暗い国道を行く。伊与喜の遍路みちには古い煉瓦造りのトンネルがあった。とっくに陽は昇っていたが、木立の中で、しかも中に照明がなく暗い。入るときはびくついてしまったが、明治の時代に地元の人々が煉瓦を運んだというエピソードを知って、開通当時はどんなに喜ばれ有り難がられたか思いを馳せてみると、むしろ今はひっそりご隠居の身を労わってあげたいような気がした。

海沿いに出て西南大規模公園に差し掛かった時、2人組のチャリダーにシャッター押しを頼まれた。高校を卒業したばかりの男の子で、自転車で四国一周をするのだそう。彼らに明るさをもらって、気分よく白浜までやってきた。前方の休憩場所に大きなザックのお遍路さんが一人… ん?Tさんのザックに似てる。そういえば日程が重なるところはあるんやっけ。でもまさかぁ…と思いつつ近づいて行くと、果たしてそれは前回の夏の土佐路を毎日ご一緒したTさんだった! お互いびっくりして再会のご挨拶。Tさんは年末に一度続きを歩かれており、その後でメールをいただくようになった。色々とご教示いただいていて、私にとっては有り難い先達のおひとりである。Tさんの由来は実は私が勝手につけたあだ名「トッポさん」で、前回の日記では失礼かと思って伏せさせていただいたのだが、意外にもご本人さんに気に入っていただけた?ようなので、以下、トッポさんとさせていただきます。

ずっと国道を歩き、入野の辺りからは海沿いに整備された四国のみちを行く。この状況もトッポさんと歩いた夏の記憶を呼び覚まし、本当にご縁のある方なんだな…と改めて思う。彼は例の大きなザックにテントを入れて、今回もテント野宿をされている。朝晩は冷えるけれど日中は夏のように暑く、二人ともペースが上がらない。荷物を送り返した私と比べて、トッポさんには本当に頭が下がる。「これは私の業みたいなものだから」と伺い、人それぞれに遍路に対する大事なもの、負うべきもの、こだわるものがあるのだな…と思った。お昼にしようにも店がなく、やっと見つけたところも定休日。スーパーでパンを買って、教わった道を国道に向かっていると、横の商店からおじいちゃんが出てきて、アズキバーをお接待下さった。歩きながらいただく。凍って堅いのがまたオツ。喫茶店を発見して休憩。トッポさんは早朝から歩かれており、そろそろ野宿先を見つけて休むとのことなので、一足先に発つことにする。お昼はトッポさんにご馳走になってしまった。

国道脇で休憩していると向かいに車が停まり、なんと昨日のカメラおじいちゃんだった。聞けば、お参り中の私の写真を撮りたいと思い、朝からずっと探して走り回られたそう。結局お互いのスケジュールが合わず、次回の区切り打ちの際にご連絡させていただくことに。翌日の午前中に時間が取れたら、伊豆田トンネルを出た付近に行きますと言われ、

お別れ…と思ったら、また戻ってこられて千円札をお接待下さる。後でなんと2千円もいただいたことが分かって、恐縮。16:25ペンション四万十川着。お花がいっぱいで、ママさんがとってもフレンドリー。ずっと素泊まりできていたが、今日はお夕飯をお願いした。

ボリュームがあって食べ切れるか自信がなかったが(それがいつも心配)、土地のものがふんだんに取り入れてあって美味しく、がんばって食べた。FAXサービスもあって、つい京都の師匠に中間報告を入れる。今回の私の遍路はどう他者には映るのだろう? 9:00就寝。電気を消したら、戸口に立て掛けてあるお杖が白くぼーっと光って、思わず跳ね起き、メガネを取る(裸眼は0.1ないド近眼)。ちょうど戸の隙間がお杖の後ろで、廊下の光が入ったのだった…。でもやっぱりこれも両方とも真実やんね、きっと。

本日の歩行距離: 33.3km(26622歩)
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