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![]() | のらくら遍路日記〜土佐・修行道場篇 (本篇U) | |
北村 香織 |
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| 3月18日(日)曇り/晴れ |
テント布団はなかなか快適だったが、フライの内側が少し濡れてやはり寒かった。何度も目が覚めてあまり寝た気がしない。3時過ぎから鶏さんも鳴きだして4時半にはたまらず撤収。一晩お世話になったお礼に、本堂と大師堂に昨夜の復習がてら朝のご挨拶。6:00 UP。
7:35 34番種間寺着。子育観音のやわらかなお姿と、子どもに注ぐ慈愛に満ちた眼差しに思わず釘付け。7:55 UP。34番までにも見たが、この辺りの水路を、小さなお大師さまの姿札が何枚も何枚も流れていく。これはなにゆえ?お彼岸か何かの行事だろうか?
仁淀川を渡り、堤防をゆく。風は暖かく、春真っ盛り。西洋のチャリティと四国のお接待についてちょっと考えた。が、今ひとつまとまらず、川の流れを見ながら歩を進めるうちに、また存在因について考えていた。仁淀川の大きな流れには流れの部分もあれば、澱みもあり、時に逆流する箇所もあるだろう。それでいいのだ。…とこのとき思った。師匠が論文の中で存在因の例?として挙げていたのが、彼の師であるグッゲンビュールが「なぜ生きねばならないのか」と悩んでいた時、ふと窓の外に見える山を見て「そうか、それでいいのだ」と解った(秋田、2000*)というエピソード。私のはそれに比べると全然浅い次元だとは思うけど、でも何か手掛かりのようなものになったとは思う。
高岡の商店街にある酒屋さんに荷物を置かせていただき、またおじいちゃんが川沿いの近道を教えて下さったので助かった。登り口辺りの墓地には何組もの家族連れがお掃除に来られていて、心温まる風景に思わず顔がやわらかになる。10:45 35番清滝寺着。山門の仁王さんがすごくインド僧っぽい。美しい鮓寒桜(しだれざくら)、ソメイヨシノが麓の景色を見下ろしている。本堂の手前にご本尊を模した大きな像があり、その中へと続く入り口があった。入ってみると、いきなり真っ暗。思わず声が出る。胎内廻りか…。考えたらそれしかないっちゅーねん、と内心ひとりツッコミ。後にはひけず思い切って手探り足探りで進む。本当に一寸先すら何も見えない。大して大きくもない像なのに意外に長い。やっと明かりが見えると、それは小さなお堂だった。手を合わせてまた進む。ようやくの太陽の光にほっとする。外の説明板を読んでいると柑橘類を売っているおじちゃんが色々説明してくれ、蜜柑のお接待もいただいた。また来た道を戻る。12:00酒屋さん着。納札をお渡しすると、オレンジジュースを逆にお接待いただいてしまい恐縮。
14:00四国のみち休憩所。立派すぎる雄鶏と雌鶏が鳴きまくっている。野良鶏??? 塚地越えルートを取るか迷ったが、今日は横波まで行く予定。すでにかなり足、肩に疲労がきており、無理はすまいとトンネルを行った。宇佐大橋手前の釣具屋さんにザックを置かせていただき、空荷で宇佐大橋を渡る。海の色がなんともいえない美しさ。強い風に吹かれるのも大好きなので最高の気分。でも足の裏が鈍く痛む。15:00 36番青龍寺着。ここの仁王さんは優しげ。足がへ〜ろへろで本堂までの石段がキツイ。でも左手にお不動さんや水子地蔵さんなどが大事に奉られ、少し湿った空気と陰が心落ち着かせる雰囲気に一目で気に入ってしまった。今度来る時はもっと余裕を持って、じっくり見たい。
釣具屋さんにお礼を言って16:25 UP。夏の遍路の後ギィやんとキャンプしたグリンピアに向けて、重い足を前へ前へ。どうしたんだろう、昼すぎから急にペースが上がらなくなってしまった。不意に「これお接待。頑張って」と商店から男の人が出てきて200円いただいた。また先へ行くと、今度は立て続けに10円玉と50円玉を拾った。どっちも10年来の風雪に耐えたような風格があり、妙にかわいそうに思えて。道端の特に無縁仏さんに相応しいと思い、見つけたらお供えすることにする。
どこまで行ってもカーブの連続。左は海。陽が翳り、寒くなってきた。だんだんと厭になってくる。なんで夏はあんなに元気だったのか信じられない。その前になんで今、こんなに歩けないのか情けなくなる。今日は2回も空荷だったのに…。涙がじわっと滲んできた。心配したトンネルは電気いっぱいでホッとしたものの、予想以上にグリンピア入口が遠い。やっと来たと思ったら明かり一つなく、ますます泣けた。びーびー言いながらそれでも歩いていくと、トンネルがあった。真っ暗さ加減に絶句。しゃくりあげながら入る。ナニこれケチんなやドォユゥコト?コワイこころぼそいナサケナイもーどーにでもナレ…
真ん中辺りに来ると前から黒い塊が来るのが見えた。犬?ヨロヨロしながら避けたが、錯覚だったみたい。そしてトンネルを抜けてすぐ右斜め前に、笠をかぶった修行僧が合掌して立っているのを見た。え?と思い、よーく見るとただの木(ソテツみたいな)だった。これも錯覚か…。車が何台も追い抜いて行く。くそーっと歯を喰いしばって、ようやく19:00グリンピア着。
足が動かず、用意されたお部屋が遠い。すぐ温泉に入りに行くが、エレベーター経由でも10分かかる。フロントへも、別館のランドリーにも往復だけで一仕事。温泉はよかったが、足が全くいつもと違う感覚。先が思いやられる。とにかくシュラフなしでのテント泊は無理と判断し、送り返すことに。昨夜チヨウゴロウさんに「苦行僧じゃないんだから、1週間に2泊は宿を取れ。顔つきが変わってろくなことにならんぞ」と言われたからでもないけれど…。顔は熱いのにゾクゾク寒い。風邪? 用を済ませ次第10:30就寝。
本日の歩行距離:42.8km(31705歩) 今書いて初めて、この日こんな距離を歩いていたことを知った。
*文献 プシケー第19号、2000年、日本ユングクラブ、新曜社
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