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掬水へんろ館雪遍路コウシン

《お接待》

 翌朝26日(土) 7時過ぎテントを撤収して切幡寺へ。誰もいない境内で般若心経を大きな声で読む。2年前初めて読んだほとんど声になっていなかった読経(?)を思い出す。よくもまあ、人がいないとはいえ、声を出せるようになったものだと不思議に思う。納経を済ませ8時20分頃11番藤井寺に向かって出発。

 川島潜水橋で、同じ方向に向かう60代と思われる二人目の本格的な歩き遍路氏に会う。野宿と宿を適当にまぜ、自分の願にしたがいマイペースで歩んでいるとのこと。勧められ、先を行くことにする。大野島潜水橋を渡る。2つの橋とも真新しいガッシリとしたコンクリート作りで風情がない。いやいや、これは旅人の身勝手な思いというものだ。地元の人々にとっては、頑丈で立派な橋は、大いに安心で便利なものなのだから。つまらないことに囚われない、囚われない。昔の潜水橋を思い浮かべ想像しながら、旅人は渡ればよい。川島城の裏手では道路工事をしていたため、国道に出なければならなかった。これは参った。歩きにとって車の騒音は心身ともに疲れる。

 ようやく家並みの続く静かな遍路道に入った頃、風花が舞い、やがて雪となった。今夜は焼山寺手前の山中での泊りの予定。これは先が思いやられる。昨夜の寒さと、明かりのない侘びしさを繰り返せない。ホカロンと電池、それに食料を買わなければと店を探し探し進んだ。路地の角に少々さびれたような店を見つけたが、いや、まだ先にコンビニでもあるだろうと通過。(1番霊山寺の近くにローソンがあります。また、9番法輪寺と10番切幡寺の中間あたりに、小奇麗な店ががあるほかは、私の歩いた遍路道には一件としてコンビニはありませんでした)

 寺が近づく、店はない。気づいた時には、引き返すには躊躇する距離(実際はそれほどでもなかったが、歩きにとってたとえ少しでも引き返すことはツライ)になっていた。どうしよう、どうしようと迷いながらも足は勝手に先に進むばかり。

 雪の中お婆さんが家から出てきました。「寒いでしょう。お茶でも飲んで行きなさい。」お接待です。うかがうとこの先にはもう店はないとのこと。荷物を置かせてもらい、先ほどの店にもどることにした。「よかったらこの自転車を使いなさい。」と言う。感謝感激、疑獄で仏とはこのことである。

 買い物を終えもどり、熱いお茶をご馳走になる。お話を聞くと、昔は乞われるまま に善根宿をよくやっていたとのこと。その頃のいろいろなお話や、不思議な出会いについて興味あるお話を聞くことができた。自分の家でつくっているというミカンをたくさんいただく。感謝の気持を込めて納札を受け取っていただき、お別れを告げて、激しくなり出した雪の中を藤井寺に向かった。

 10時45分11番藤井寺到着。読経、納経を終える。腹を満たし、荷物を整理し、身支度を整え、焼山寺に向かって本堂左脇の遍路道に意を決して踏み込む。11時20分。はたしてどこまで行けるのか。いや、一体私はどうなるのだろうか..........?

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