掬水へんろ館目次前次談話室
掬水へんろ館四国遍路ひとり歩き 2004年春

ふだらく峠越え

    この日は、この後21番太龍寺を打って、ふもとの民宿に泊まる計画だった。だが、鶴林寺に意外に早く着いたので、22番平等寺まで行くことにした。別段、先を急いでいたわけではなく、ふだらく峠越えを歩いてみたいと思っていたからである。

    ふだらく峠越えルートとは、舎心ヶ嶽(南舎心)を打ち抜けて直接平等寺に向かう道だ。従来の遍路地図には掲載されておらず、「同行二人」の第6版で新たに書き加えられたコースの一つである。ふもとの民宿に泊まるには道が別方向になるので諦めていた。しかし、平等寺に直行するのであれば選択肢に入る。

    太龍寺への登りでは、2〜3人の男性遍路を追い抜いた。僕は心肺機能が弱いので山道の登りは苦手ですぐに息が上がってしまう。それなのに、きょうはえらく快調だ。昨日の穴禅定のご利益だろうか。

    12時過ぎに太龍寺に着くと、2日ぶりに黄色いキャップさんに再会した。ベンチで昼食中だ。「どこから来たんですか?」と驚いている。この時間にここに来る人はたいてい前夜は金子やさん泊まりだろう。

    お参りを済ませて、境内で昼食代わりのパンにかじりつく。先ほど追い抜いたお遍路さん達が相前後してやってきた。その中の一人は、僕より少し年上の沖縄の男性Kさんで、焼山寺越えのあたりから顔なじみになった。車道を下るか、ふだらく峠を越えるか、地図を見て呻吟している。ここまで登るのに力を出し切ってしまったのだろう。ふだらく峠越えの地図を仔細に見て「まだ上りがあるのかぁ」と躊躇している。車道を下るのは楽そうだが「でも2度と来ることはないだろうし…後悔したくない」と迷いは続く。

    急坂の参道を登りつめて南舎心に着くと、トラクターで登ってきた作務衣のお坊さんがいた。立ち入り禁止のロープを越えて岩場の頂点のお大師様のところまでよじ登っていく。木の小枝でお身拭い(?)をするようだ。こんな光景はめったに見られない──と思って、デジカメのズームを一杯にしてシャッターチャンスを狙った。ところが、いきなり携帯電話で話し始めたのでズッコケた。通話はなかなか終わりそうにもない。

    撮影は断念し、お大師様を左に見て山道に入る。10分ほどの急登で太竜寺山頂(標高618メートル)に立った。このあと、道は一気に山を下っていく。初めは倒木があったり、大きな段差をロープと梯子で越える箇所があったりしたが、大半はきれいに整備されている。

    石の道しるべも目立ち、古くから歩かれた道であることをうかがわせる。ふかふかに積もった杉や笹の葉のクッションが、鶴林寺から下る階段で疲れた足を柔らかく受け止めてくれた。トントン下っていくと、左足が道からはずれて空中に! 金剛杖のおかげで危うく転落を免れた。ちょっと調子に乗りすぎたようだ。

    まもなく、先に行ったキャップさんに追いついた。持福院の先で車道(地図では点線だが)に出たので近くで農作業をしているおじさんに道を確認。左に進んで195号に出た。

    【参考コースタイム】
    21番太龍寺[13:05]…南舎心[13:20]…太竜寺山頂[13:35]…阿瀬比合流点[15:20]…22番平等寺[16:30]

    次へ 

[四国遍路ひとり歩き(2004年春)] 目次に戻るCopyright (C)2004 くしまひろし