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![]() | ![]() | くしまひろし |
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4時20分起床。起きると雨である。
路傍の石仏
比較的新しいのも多い昨日、日和佐を出るとき買っておいたちくわを半分ぐらいかじって簡単な腹ごしらえをする。お接待で頂いた菓子も1個食べる。これから40キロ以上歩く日の朝食としてはちょっと寂しいが、食べるものがあるだけありがたいというものだ。
上下とも雨具をつけ、明るくなりはじめた5:00出発。菅笠は十分雨をしのいでくれるので傘は不要である。寄りによって強行軍の日が雨とは! と嘆くが、1時間ぐらい歩くと雨は上がった。羽田を出発するときは「台風一過の快晴、炎天下」を覚悟していたが、昨日も今日もぼんやりした天候でむしろ良かったと言うべきだろう。
6:45 中古車販売店の一角にやきうどんなどの自販機があるのをみつけ、朝食の本番とする。一度箱の中身を出し、めんや具をセットしてふたを閉め、下の方から出ているひもを引いて5分待つと、あつあつのやきうどんが完成する。地面において調理したり、立って食べたりしなければならないのがつらいが、まともな食事(これが「まともな食事」と言えるかどうかは議論があるだろうが…)にありつけたのはありがたい。
焼きうどん販売機 朝食の食卓 7:30 「海部駅前休憩所」というりっぱなあずまやがあった。自動販売機で調達した食料であっても、本当はこういうところで食べることができるといいのだが、自動販売機と休憩所というのはなかなか同じ場所にない。特に、公的な休憩所の場合、わざと意地悪をしているかのように自動販売機は離れている。でも、せっかくの休憩所であるからゆっくり腰をおろして休憩する。
ぼんやり道路をながめていると、きのう鯖大師で同宿となった自転車遍路の男性がゆっくりペダルを踏み、僕に手を振りながら通り過ぎて行った。サドルの後ろに金剛杖を差し込んでのんびり走っている。夏休みだからかもしれないが、ツーリング用の自転車の若い人とよく出会う。でもそういう軽快な自転車ではなく、彼の自転車は、いわゆる「普通」の自転車であった。
ここまで2時間半で8.2キロ。ということは、時速3.3キロ。途中、雨具を脱いだり朝食をとったりと時間を使ったにしても、このペースでいくと宿に着くのは7時過ぎになる。もうすこしペースを上げようか。
高知県に入り、9:45 甲浦大橋を渡る。 休憩所つきの自販機があった。こういう貴重な機会はぜひ利用しようとアイスクリームを食べていると、半ズボン姿の遍路姿の男性がゆっくり歩いて行くのが見えた。 アイスクリームを食べ終えて1キロぐらい歩くと、その男性に追いついた。1番から歩きで、昨日は海部に泊まったとのこと。「とくますに泊まるつもりだが予約してない」と言うので、「電話をしておいた方がいい」と勧める。(「同行二人」の本で要予約となっているので)。同じとくますに泊まることになりそうだが、僕の方はちょうど歩行ペースが調子にのってきたところなので、失礼して先を行くことにする。
野根付近で昼食にしようと思っていたが、「同行二人」に出ている食堂はどこも営業していない。閉まっているか、店先で声をかけてみても「もうやってないよ」とのこと。11:30 伏越岬付近に来て「ここから9.3キロは異常気象の場合は通行止め」という表示がある。まともな昼食にはありつけないと覚悟する。道端にすわりこみ、ちくわの残りと、きのうお接待で頂いた菓子2個を水筒の水で流し込み昼食とする。12:10発
野根の集落
巨岩・奇岩の険しい海岸を左に見て延々と続く国道を、距離表示を励みに歩く。右側は金網ごしに雑木林が続いているが、突然茂みの中でガサガソと音がする。ふと見るとサルと目が会った。じっとこちらを見ている。そうっとカメラを取り出したとたん、素早く茂みの中に隠れてしまった。
国道の距離表示 台風の後始末なのか定期的な作業なのか、作業員数人がトラックで乗り付けて道路場に散乱する枯れ木やゴミなどを清掃している。「こんにちは」と挨拶するが、全く無視され寂しい。
14:00 室戸市に入る。
道路の左側は、ゆるやかにカーブした海岸線で、前方はるかかなたに突き出た岬を望む---という風景が、繰り返し何度も何度も現れる。まるでキツネかタヌキに化かされているような気になる。きっと、あの岬の先の先の…そのまた先…に今日の目的地があるのだろう。
室戸岬を目指して 何度も同じ風景が あの先の先… 国道からは、ところどころ浜に降りる通路ができている。黒潮の洗う浜におりて遊んでみたいけど…今日の行程は40キロというのが頭にあって気持ちに余裕がない。前回の徳島県内の遍路では、1日当たりの札所が多いという事情があるにしても、1日平均20数キロのペースだった。今回、2日目でまだ足が出来上がっていないのに40キロというのは無謀な気もする。でもここまで来たら歩くしかないのだ。
佐喜浜漁港の周辺は、商店街もあって結構にぎやかな町で、通行人や、人家の前で話し込んでいる人の姿も多い。でも、ここでも「こんにちは」などと挨拶しても全く無視である。その割に視線にさらされている気がして、足が速まる。集落を抜けて何となくほっとし、ガソリンスタンドの自販機の脇に座り込み、アクエリアスの缶で頸動脈を冷やしてほてった頭を癒した。
こう書くと、土佐の人は遍路に冷たいようだが、決してそうではないということが後で分かった。というのは、道を尋ねるとか、何かを頼むとか、具体的な関わりを持った場合にはすごく親切にしてくれるのだ。ちょっと表面的な愛想良さに欠けるているだけなのだと思う。
16:50 『民宿食堂とくます』着。やれやれ。約12時間の歩行である。休憩も入れて時速3.5キロ。よしとしよう。おかみさんが直ぐに部屋に案内してエアコンを入れてくれる。熱いお茶がうまかった。
きれいな浴室で汗を流し、食堂に向かうと、昨日の親子と再会した。半ズボンの男性も着いている。夕食はうなぎまで付いた豪華版である。
とくますの夕食 男性は三重から来られたカワイさんで、おいしそうにビールを飲んでいる。
カワイさんの話
1番から歩いて10日目。日和佐で台風で足止めされ2泊した。歩き始めたときはスニーカだったが、マメができてしょうがないので、家から軽登山靴を送ってもらった。重い荷物をしょって何日も歩くときはやっぱり厚い靴下でこういう靴をはかないとダメだね。両足の小指のマメがいつまでもよくならず歩くと痛くてかなわない。初めは禁酒していたんだけど、ある日「今日は暑いから特別」って一度飲んだら、もうその後は毎日飲んでいる。宿のことなど何も調べてないし、お寺なんかで人に道順を聞いたりして歩いている。この宿は郵便局で教えてくれた。仕事やめて退職金もらった。時間と金はたっぷりあるから、行き当たりばったりのんびり行く積もり。
親子は東京から来たカタネさん。娘さんの休みに合わせて、5月、7月(今回)と来て、次は9月の3連休も来るつもりという。今回は8月3日(日)まで。毎晩、携帯電話にご主人から「寂しいよ」と電話があるという。
カタネさんの話
37番岩本寺(近くにJRの駅があり交通便利)まで行けたら…と思っていたけど、台風で1日ずれてしまったから無理。日曜日の帰りの便は4週割引で予約済。どう計算しても37番までいくには火曜日までかかる。どうせ学校は夏休みなんだから3日延ばそうかと娘に言ったら、絶対日曜日に帰ると言うんですよ。だったら、中途半端に交通不便なところまで行っても、次回のとき大変だから、今回は33番ぐらいまでのんびり行くことにした。これなら日程的には余裕がある。靴はね、前回のとき、普段はいているスニーカを履いてきたら、1日目で足が入らなくなってしまった。今回は「同行二人」の教えを守って、普段より2センチ大きいスニーカに、インナーと厚手靴下の二枚重ねにしている。
食事しながら、翌日どうするかで盛り上がる。とくますから24番最御崎寺まで14.7キロ。最後ちょっと登りがあるが昼前には着く。続いて25番津照寺、26番金剛頂寺まで足を伸ばし、金剛頂寺の宿坊に泊まるのが順当な日程である。ところがカタネさんが26番に電話してみたところ明日と明後日は宿坊は休みとのこと。「松山に行くから」とのことで、よくある個人客拒否とは違ってホントに休みらしい。24番の宿坊はユースホステルを兼ねているから個人だからといって断られることはないはずだが近すぎる。
せっかく室戸岬という有名なところに行くのだし、きょうたっぷり歩いたのだから、少しぐらい観光しても罰は当たるまいという気持ちもある。僕もカタネさんと同じく区切りの良いところで今回の打止めにする積もりなので、どんどん行って早く終わるよりは、日程を一杯に使って多くの人と会い、多くのものを見てみたい。先を急がず室戸岬周辺でゆっくり過ごすというのも魅力的な案だ。
とくますの奥さんに室戸岬のお勧めの見どころを尋ねてみると、食堂に貼ってある大きな航空写真を使って、色々と説明してくれる。「室戸岬で泊まるなら民宿室戸荘がいいけど、近すぎるわよねぇ。25番は室戸の町の中だから、近くに旅館はたくさんある。」とのこと。
結局、疲れた心身では思考が堂々巡りするばかりで何の決断もできず、とにかく室戸岬まで行ってみて気分次第で決めることにする。
こんなふうに行き当たりばったりの旅というのは、何でも予約しておかないと気が済まない僕の普段の性格からは考えられないことだ。すごくぜいたくなことをしている気持ちになる。でも25番近くの室戸市街で泊まるにせよ、26番のふもとの民宿にお世話になるにせよ、明後日は標高430メートルの27番神峯寺のふもとの浜吉屋が便利だ。ここなら荷物をおいて山に登れる。今のうちに予約を入れておくことにする。
今日一日の舗装道路歩行で、右足の裏が広くなだらかなマメとなって水がたまっているようだ。前回の遍路でマメの手当ての方法は会得した積もりであったが、ぷっくり盛り上がったマメでなく、このような偏平のマメは初めてなので扱いにくい。
歩数 58198・42.6キロ。1日で歩いた距離としては最高だ。でもマラソンの選手は42.195キロを2時間ちょっと駆けてしまうんだよなあ、とても人間技とは思えない…と今更ながら尊敬してしまう。
ところで、上記の数字を割算すると歩幅が出るが、昨日よりずいぶん長くなっているようだ。足が長くなったのだろうか。それともこの万歩計がおかしいのだろうか。
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