掬水へんろ館遍路日記第1期翌日談話室
掬水へんろ館四国遍路ひとり歩き 第1期くしまひろし

第1日(5月11日) 空路徳島へ 1番、2番

徳島に飛ぶ

ふだん仕事で飛行機にのるときは、荷物を受け取るために待つ時間がもったいないので、荷物は預けないことが多い。今日もそのままザックをX線の荷物検査のベルトに載せた途端に気がついた。今日はザックにカッターやはさみが入っている。わあ、ブザーが鳴るぞ…と思っているうちに、僕の荷物は静かに出てきた。「凶器入り」のザックをそのまま通過させるとは、日本の空港警備は大丈夫なのだろうか。いつも僕のベルトのバックルには反応するのに…。

バスに乗り遅れる

駅ビルの中華料理屋で昼食をとったあと、バス乗場を探す。駅前で女子中学生風の一群に道を教えている制服姿のおじさんに、霊山寺行きのバス乗場を尋ねるが、「おれはタクシーの案内だ。バスのことはバスに聞け」といってとりあってくれない。東京でも徳島でも男は女の子にやさしく男には冷たいのだ。

バス乗場にいって尋ねると「1時半のバスが出たばかり。次は3時ですよ〜」と言って、帰りの便まで載っているバスの時刻表をくれた。のんびり昼食をとるより先にバスの時刻を調べておくべきだったと後悔するが後の祭り。1時間半も間隔があいているなんて考えもしなかった……あと5分早ければ……いやいや何をそんなに急いでいるのか。入社20年目にもらった5日間のリフレッシュ休暇でのんびり歩き遍路をするのじゃないか。急ぐ理由など何もない……と自分に言い聞かせる。

JRで第1番霊山寺へ

JRの駅に戻り、高徳線の時刻を調べる。次は14:26発でこちらも大分時間があるが、駅から歩く時間を入れてもバス利用より早く着くはずだ。JRにしよう。時間があるので駅前のそごうに行ってみた。細かい地図を見るためのルーペが欲しかったが、ちょうどセールをしていたので、ケースつきの結構良い品物を1000円で買った。
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高徳線のワンマンカー
乗った高徳線の電車は1両だけのワンマンカーである。僕のほかにお遍路さん風の人はいない。今日は土曜日。下校中らしい高校生が多い。整理券をとって後ろの入口から乗る。電車は田植え直後の水田地帯をいく。

約25分で板東駅に到着。運転席のところにある、ワンマンバスのと同じような料金箱に整理券と乗車券を入れて降りる。一緒に電車を降りた人は数人いたが、僕が駅前できょろきょろしているうちにみんなさっさといなくなってしまう。どっちに行っていいのか分からない。有名な四国遍路の玄関口たる霊山寺の最寄り駅なのに、案内図も何もない。駅前は閑散としていて誰もいない。徳島駅発のバスも便数が少なかったし、誰もお遍路さんらしい人はいないし、JRの駅もこんな風だし、四国遍路なんて今時誰もいないのだろうか。だんだん不安がわき上がる。何となく、四国にはお遍路さんがうじゃうじゃ来ているような先入観があったので、当惑する。やっと駅前の雑貨屋で、霊山寺への道を教えてもらい、歩き始めた。

第1番霊山寺で道具を整える

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第1番 霊山寺
教えられた通り10分ぐらい歩いていくと、民宿が何軒か並ぶあたりを通って第1番霊山寺に到着。おお、いるいる。ここまで来れば、白装束のお遍路さんがぞろぞろ来ている。やっぱり、バスやタクシーで来る人が多いのだ。

霊山寺の販売所で巡礼用品を見る。値段が高いような気がしたので、どうしても必要な白衣上、納経帳、金剛杖だけを購入。納経帳にはもう納経が済んでおり(つまり、納経帳の霊山寺のページに朱印と墨書がある)、代金には納経料も含まれている。確かに効率的だけど何だかありがた味が少ない気がする。やっぱり目の前で書いてほしい。

今日の宿泊先を頼んであるが…とレジの人に尋ねると「今日は阿波さんにお泊まり頂きます」といって旅館に電話をいれてくれる。本当は宿坊に泊まりたかったのだが、一週間ぐらい前に電話したときに「宿坊になるか民宿になるか分かりませんが当方で調整して確保しておきます」と言っていた。やっぱり宿坊はダメか…

山門を出たところに「門前一番街」という売店があった。おみやげ売場で絵はがきを探したが、阿波踊りや瀬戸大橋ばかりで、札所や遍路に関係したようなものはないのでがっかり。巡拝用品の売場で経本、輪袈裟を購入。他の道具も、お寺より品数豊富で安いようだ。こっちに先にくれば良かったと、ちょっと後悔した。

民宿阿波−Kさんと道連れになる

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第2番 極楽寺
民宿阿波は、先ほど通った民宿の並びの内の1軒である。 一旦ザックをおき、早速、白衣を身に付け金剛杖と納経帳だけを持って、霊山寺から20分の第2番極楽寺のお参りに出かけた。明日の朝も同じコースを通って行くことになるので明日でもいいのだが、こうしておけば明日の時間が稼げる。

宿を出ると、霊山寺の方から本格的な遍路姿の人が歩いてきた。僕のような中途半端な恰好ではなく、手っ甲、脚絆を着けた上から下まできちんとした遍路姿である。ただし足元だけはスニーカである。立派な金具の付いた金剛杖をもち、それをじゃらんじゃらんと鳴らしながらゆっくりと歩いてくる。初めて出会った歩き遍路の人だ。軽く会釈をしてすれ違った。

霊山寺から極楽寺までの県道わきでは桃畑が目立つ。納経所では、納経帳に朱印を押し、墨書してくれる。朱印と墨書の順序はお寺によって逆の場合もある。納経料として300円を払う。

宿に戻ると、奥さんが「え?もう2番さんまで行って帰って来たの? 早いねえ」とびっくりしている。ちょっと気を良くする。

同宿者は他に3名。

体格の良い中年男性は、車で巡拝中。

高野山大学の学生は、金がないので食事は要らないという。多分、霊山寺での宿泊を断られたのであろう。宿の主人が「お接待しないとな」といいながら簡単な食事を出していた。

そして、先程すれちがった本格的遍路姿の人である。奈良から来た60才くらいのKさんで、納経掛軸を徒歩で仕上げたいという。納経掛軸というのは納経帳の代わりに掛軸の一面に88箇所の朱印・墨書を頂くもので、納経の後、納経所に備付け備付けのドライヤで乾燥させたり、しわにならないように丸めて持ち歩かなけれぱならないので手間がかかる。掛軸の納経料は500円。今回は阿波(徳島県)だけを7〜10日で回る積もりとのこと。宿泊の予約は一切しておらず、適当に宿坊に泊めてもらう積もりだったそうだ。ところが、最初の霊山寺で断られ、民宿を紹介するというのを振り切ってこの辺をうろうろしているところを、阿波のご主人に呼び止められて入ったとのこと。明るいうちに風呂を済ませ、食事はKさんと一緒に食べた。お寺に泊めてもらえなかったことで憤慨している様子。

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民宿阿波

阿波のご主人の話

連休中は忙しかったが、もうそろそろ終わりだね。梅雨になると田植えだから来ない(お遍路さんは農家の方が多いということ)。バスの団体さんも今が駆け込みだ。お寺はなかなかひとりじゃ泊めてくれないよ。大きな風呂を沸かしたり料理を作ったりしないといけないからね。民宿も連休で疲れて休んでいるところが多いね。うちも休みたいところだがね。明日はどこで泊まるの? ああ「たみやさん」ね。やってるかなあ。ああ、電話してあるの。じゃあ大丈夫だ。

ご主人の話を聞いて、Kさんも心配になって来たらしく、僕が翌日泊まる予定のたみや旅館に電話を入れた。Kさんとは、この後も後になり先になり、つかず離れず、ほとんど同じ行程を行くことになる。

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