四国遍路談話室



CD-ROM
試用レポート
現代に生きる
四国遍路道
四国遍路の社会学的研究
株式会社日本図書センター
価格 18,000円 (税別)
ISBN4-8205-4616-3 C0839

CD-ROM「四国遍路道」は、早稲田大学道空間研究会の研究成果をもとに、早稲田大学文学部の長田攻一教授及び坂田正顕教授の監修により制作されたものです。動作環境は「Windows95 or NT4.0」と記されていますが、僕はWindows98で使ってみました。

雰囲気を盛り上げるイントロ

イントロ このソフトを使うのに、インストール作業や初期設定などの面倒な操作は必要ありません。CD-ROMをセットして、エクスプローラから「四国遍路.exe」というアイコンをダブルクリックすれば、直ぐにプログラムが始まります。

早稲田大学のクレジットが表示されたあと、画面が切り替わり、コンピュータグラフィックスで描かれた雲の間から日本列島が姿を現します。尺八風のBGMの流れて雰囲気を盛り上げ、我々は上空から次第に四国に近づいて行きます。さて、これからどんな世界が待ち受けているのでしょうか。期待が高まります。

イントロが終わると、「概要」のページに変わり、このCD-ROM趣旨などが解説されてます。詳細な記事が表示されていますが、長田教授の動画による解説が流れますので、それを聞けば大体のことは分かります。それが終わると、いよいよメインタイトル画面が表示されます。画面左下の「始める」をクリックするとメニュー画面に進みます。

ちょっと前置きが長い気もしますが、このCD-ROMは「四国遍路の社会学的研究」という副題のついた「本格的学術CD-ROM」でありますから…。(画面右下のSKIPをボタンで飛ばすこともできます)

メニュー画面

メニューには、次の6個のアイコンが表示されています。


バーチャル遍路

バーチャル遍路 まず最初に、面白そうなバーチャル遍路を試してみました。メニューの「遍路旅を始める」をクリックします。

色々と条件が指定できますが、今回は僕の次回の区切り打ちをもってみましょう。画面の案内に従って「順打ち」の「区切り打ち」を選択し、始点として「75番善通寺」、終点は結願後お礼参りをするため「1番霊山寺」を指定します。さらに、「歩き」か「車」か、また、年齢、性別、体重という体力判定のための項目を指定して、いよいよ出発です。

画面には指定した地域の鳥瞰図が表示され、可愛い遍路人形がトコトコ歩いて行きます。遍路コースがいくつか分かれていて、選択できるところもあります。また、小鳥のさえずりが聞こえてきたり、思わぬお接待を受けたり、天気が悪くなったり、といったハプニングもあるところに遊び心があります。画面には、日数と時刻、現時点での標高値、前の札所からの距離、距離合計、消費カロリー時々刻々と表示されていきます。僕は、番外札所には寄るための回り道はしないことが多いのですが、画面の遍路クンは律儀に番外も回って行きます。時間経過は自動的に計算されて、1日目、2日目というふうに進んでいき、88番を打ち、8日目に1番に着くとめでたく結願となりました。

クロージングの画面には歩いた総距離や要した日数が表示され、打ち終えた人々の納めた金剛杖の束や心に残る手押し車の写真などが表示されて、結願の感慨にひたるという寸法です。

遍路道をビジュアルに

鳥瞰図
3D
断面

「道と札所の映像情報」は、遍路道を様々な角度から視覚化して見せてくれます。まず四国全図から見たい地域を指定し、さらに細かく地域を絞っていき、平面図や鳥瞰図を表示します。右図は、6番安楽寺から順序に歩いてきて、10番切幡寺を経て吉野川を渡り、11番藤井寺に向かうあたりを表示したものです。いつもはへんろみち保存協力会の地図で、もっと狭い範囲で遍路道を見ることが多いのですが、こういう角度で見ると、遍路の行程を空から見渡す感じです。

2番目の図は、道中の高度差を分かりやすく表示する3D表示です。柳水庵から12番焼山寺のあたりです。遍路道がリボン状に立体的に表示され、札所間の高度差や勾配がより直観的に分かります。これらの図は、ズームアウトしたり、見る角度を変えたりすることができます。

札所間の遍路道を垂直の断面で表示したのが3番目の図です。右図は11番藤井寺から12番焼山寺までのいわゆる「遍路ころがし」の行程を表示したものです。僕の遍路日記(第1期3日目)では地図から等高線を読み取って作図してみましたが、こうした勾配図がクリックするだけで簡単に表示できるわけです。

また「道の統計情報」という機能を使うと、始点と終点の札所と入力することによって、さらに詳しい情報が表示できます。上と同じ遍路ころがしの部分は下記のように表示されます。

標高差659.0m
札所間距離10.5km
札所間平均標高510.0m
札所間平均斜度3.6度上り8.8度下り-6.6度
上り下り回数7回
上り距離6.9km割合65.7%
下り距離3.6km割合34.3%

現代に生きる四国遍路道

山道 ビジュアル画面で遊んでいると時間のたつのを忘れてしまいますが、このCD-ROMの主軸をなす論文は、メニュー左上の「現代に生きる四国遍路道」です。

これは、記事と写真、図や動画を組み合わせによる四国遍路の総合的な論考です。記事はスクロールしたり前後に戻ったりスキップしたりできますが、画面右下の「NEXT」をクリックしていくと、所定の順序で読み進むことができるようになっています。記事が自動的にスクロールするのに同期して左上の図や写真も変化するようになっており、読みやすくする工夫が見られます。右図は、山道を歩いていく様子を、遍路自身の視線で撮影した動画が表示されているところです。柏坂の「馬の背」付近じゃないかと思います。

記事では、遍路の成立の歴史的な経緯から、現代の遍路道の変容までを詳しく解説しています。今や、遍路道の約20%が一般国道、25%が県道、40%弱が市町村道だそうです。現代の歩き遍路にとっては、往来する車、排気ガスと騒音、コンクリートの路面、金剛杖を噛む側溝の金網 が事実上の「道中修行」だと看破しています。

忙しい現代人にとって通し遍路より区切り遍路が便利で、さらに交通機関の発達によって、札所を順を追ってたどらなくても好きなところに自由に行けるように道路がネットワーク化されてきました。こうした状況をふまえて、著者は、四国遍路においては今後、順打ち・通し打ちという傾向が薄れ、「西国霊場」化していくのではないかとの見通しを述べています。

アンケート調査結果

アンケート調査結果 早稲田大学道空間研究会が1996年に実施した遍路に対するアンケート調査を元に、「遍路経験の社会学的意味」を分析しています。この調査は1996年4月5日〜5月末日の期間にあらかじめ選定した札所にて、そこを通過する遍路を用紙記入式で実施されたもので、重複などを整理した結果、1,237票の回答を得たそうです。

設問は、遍路の動機・きっかけや宗教意識、打ち方(順・逆、通し・区切り)、移動手段、同行者、持ち物、費用、宿泊先、充実感、困った経験、遍路道の利便化についての意見などと広範に及んでいます。前述の「現代に生きる四国遍路道」の中にも分析結果の一部が紹介されているほか、「アンケート調査データ」というメニューに、詳細な集計結果がグラフ化されて収録されています。

例えば、「遍路は札所巡礼に意味があるから、移動手段の違いは問題ではないと思うか」という設問に対して、下記のような考え方の違いが表れていて興味深いです。

移動手段の違いは問題ではないと思うか
移動手段そう思うそうは思わない
車やバス中心54.0%40.0%
徒歩が主25.8%66.1%

ところで、上記のアンケート実施期間は、ちょうど僕が第1期目の区切り打ちで徳島県内を歩いた時期にあたります。そこでかすかな記憶をたどってみると、確かにどこかのお寺でこのようなアンケートに記入した覚えがあります。ここにも「出会いの結び目」があるというべきでしょうか。


遍路に関心のあるすべて人に

遍路道についてのこうした多面的な情報は、これから四国遍路を始める方にとっては、計画を立てるのに大変便利だし、経験者にとっても、自ら歩いた行程を空から立体的に様々な角度から見ることができて、思い出を新たにし楽しめる内容です。詳しくは触れませんでしたが、札所の周囲や道中の900枚に及ぶ写真は、道端のちょっとした風景までカバーしていて、確かにこれこそ「現代の遍路」の実像だと感じさせます。今後、遍路の風景がさらに変容を遂げていくとしたならば、このCD-ROMの論文や写真は20世紀末における遍路習俗の貴重な記録としても意味を持つものでしょう。

それにしても、18,000円という価格は、個人として買うには少し決心を要する値です。監修の早稲田大学の長田教授の話によると「出版してくれるという奇特な会社があるだけでも有り難く、価格設定についてはお任せするしかありませんでした」とのことでした。ニッチ商品(せまい市場でのみ価値を有する)なので仕方がないことかもしれません。

今回、長田教授のご好意により試用する機会を得ましたが、値段の点だけを別にすれば、僕としても「四国遍路を百倍味わう1枚」として皆さまにお勧めします。書店で注文できます。

CD-ROM「現代に生きる 四国遍路道 四国遍路の社会学的研究
動作環境Windows95 or NT4.0/Pentium processor/32MB RAM/16bit(32000色以上800×600ピクセル)モニタ/Windows95対応サウンドボード/4倍速以上のCD-ROMドライブ推奨CD-ROM版「四国遍路道」
制作早稲田大学文学部道空間研究会
連絡先: 長田攻一研究室 (TEL:03-3203-4114 内線 3210)
発売株式会社日本図書センター
TEL:03-3947-9387 FAX:03-3947-1774
価格18,000円(税別)
ISBN4-8205-4616-3 C0839
四国遍路談話室