川端龍子『川端龍子詠んで描いて四国遍路』 (小学館,2002年)
本体価格 838円, ISBN4-09-411511-0 C0126
この著は、日本画の大家である川端龍子が1950年から55年にかけて行なった四国遍路の画句文集、つまりスケッチ紀行です。一札所につき、見開き2ページがあてられており、右には200字前後の紀行文で、遍路の道中や札所の様子が簡潔な文章でまとめられ、俳句が3句ほど、左には「草描」と名づけられた淡彩の墨画がおさめられています。草描は鉛筆で何枚かスケッチした中の、おそらく一番印象に残っているもの、一番気に入ったものなど彩色したのだろうと思います。写真では味わえない風情のある情景です。12番焼山寺の山門前の石段とその脇の老木はよく写真に取り上げられています(『遍路の風景』村上護 愛媛新聞社、『四国遍路』西村望 保育社他)が、この著でみると、写真以上に焼山寺らしさが伝わってきます。
10番切幡寺では、麓の門前町を草描しています。昔に比べると、今はさびれていますが、今でもここには旅館、表装の作業場など門前町の佇まいが残っているところです。評者の遍路でも、なるほどこれが門前町かと印象に残ったところです。ページをめくり、自分の印象に残っているところが画になっている札所に出会うと、大家の目と自分の目が同じだと、うれしくなってきます。
なお、1956年に岩波書店から写真文庫の1冊として『四国遍路』が出版されています(当コーナーで6月7日に紹介された本です。このシリーズは1980年代後半にワイド判にして復刻されましたが、『四国遍路』については復刻されているかどうかはわかりません)。草描とほぼ同時期に撮影された写真です。写真文庫を開き、1番霊山寺、5番地蔵寺など、草描と同じ建物の写真が出てくると、撮影の角度は違っていても、龍子がスケッチした札所風景がどのようなものであったのかというのがよく理解できます。また、大家の手で描かれると、このような風景がこのような画になるのかと、感心させられます。20番鶴林寺の三重塔には角材のようなものが取り巻いていて、これは何だろうと不思議に思いましたが、写真文庫を見て、これは修復のために組んだものであったことがわかり、疑問が解けました。
現在出版されている四国遍路の画集と写真集を同時に眺めて画家の目と写真家の目の違いを比較するのも面白いと思います。
投稿者: 北摂山系お伴の旅人