年の初めに食べるもの

くしまひろし


1.タルトたまご

にしめとか、栗きんとんなんかどうでもよくて、とにかく、お正月といえばタルトたま ごがないと始まらない。白と黄にくっきり分かれたタルトたまごが、お重の中に一列に並 んでいるところは、宝物のようでわくわくしてしまう。年に一度お正月にしか母は作って くれなかったので、よけい貴重に思うようになったのだろう。
実をいうと、「これがないと始まらない」というものはもう一つあって、それは水よう かんであった。これもお正月にしか作ってもらえず、本当のようかんより何倍もおいしい のに、どうして店には本当のようかんしか売っていないのか、不思議でしょうがなかった 。近ごろは、水ようかんは缶詰で売っているので、「これがないとはじまらない」という ものではなくなってしまった。
結婚してからは、タルトたまごを作るにも、裏ごしを手伝わされるし、またわが家には お重がないので、その感激も半分といったところである。

2.おもち

おもちというものはあんまり好きではない。好きではなくても年に一時期しか食べられ ないとなれば、何となく流行におくれまいとする心理に似て、きょうだいで争って食べた りもする。
学校にあがる前、九州に住んでいたころは町内でもちつきをして、丸もち(食紅でピン ク色にしたのもある)をつくり、ふわふわのを食べた。あんこもちも食べた。でもやっぱ りおもちというものはあんまり好きではなくて、元日の朝、タルトたまごを含むおいしそ うなおせち料理といっしょに、ほかほかのごはんではなくて、お雑煮が出てくると、がっ かりするのだった。

3.ごまめ

12月30日は母のつくったリストを持って、父といっしょにデパートに買い出しに行 くのが恒例であった。食料品売り場は大変な混雑、しかも今のスーパーとちがって一品ご とにお金を払い包んでもらうのだからめんどうだった。その上、何をどこで売っているの かをさがすのがまた大変で、従って、売り場の上に垂れ下がっている紙を遠くからみつけ るのが私の役目であり、それらとリストを見比べてばかりいた。だから、ごまめと黒豆は 何の関係もないと知ったのはずいぶん大きくなってからである。

©1984 くしまひろし

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