色々の話

くしまひろし


僕は色弱である。日本人の男性の約4.5%が色弱、もしくは色盲であると言われているから、それほど珍しいものではないが、大多数の人々の備えている能力の一部が欠けているという点では障害に違いない。

色弱にもいくつかの種類があるが、僕の場合は最も多いケースで、赤色に対する感覚がきわめて劣っているものである。淡いピンクは灰色に見え、赤と緑の区別がはっきりしない。色が非常に鮮やかで、広い面積を持っていれば大体わかるが、小さい物体の色などはよくわからない。

しかし日常生活で困ることはほとんどない。

色の区別といえばすぐに交通信号を連想する人も多いと思うが、信号機のランプの色は非常に鮮やかで、見間違えることはない。色とりどりの点々模様の色神検査表では必ずひっかかるが、恐々受けた運転免許の試験では光るランプを識別すればいいので問題なかった。

また、日常の世界には、情報の冗長度があり、信号の場合も、左が緑、右が赤という具合に、実際には色以外の情報も利用可能なので、私より重度の色弱の人でも見誤ることはないと思う。

ところが最近は何事においても技術やデザインが洗練されてきて、色の変化だけで何かを示そうとする場合がかなりある。たとえばエレクトロニクス機器などに使用する抵抗器は、僕が中学生のことは小さくても1cm以上あって側面に抵抗値やワット数が印字されていたものだが、最近は数ミリぐらいの米粒みたいなのに何本もカラフルな線がひいてあるだけである。十何色の色がJISで定められていてそれぞれ数字や精度を示しているのだが、僕は到底見分けることができない。買った時にきちんと分類してラベルをつけておき、更に一本一本テスターで計って使っている。

各種の表示装置の技術も進歩して、一つのランプで2色を表示仕分けるものがある。複 写機のスイッチで緑と赤とに色の切り替わるのを使うときはカンにたよるしかない。

何といっても困るのがトイレのドアである。昔は「あき」とかいう文字が小窓からのぞいていたり、あるいは何も表示がなくて、ノックをして「入ってます」といわれたりした。最新式のトイレのドアにはやはり小窓があるが、見えるのは赤か緑の色だけである。僕はこういう小さい部分の色は見分けられないので赤になっていてもノックをするが、きっと中にいる人は気分を害しているにちがいない。

色による表示は文字による表示よりもスマートだし、一般には遠くからでも認識でき、国際性もある。でも同時に文字または図形による表示もつけ加えてもらえると助かる。トイレの「使用中」の赤色にはたとえば中央に黒線を一本入れるとか、色の変わるランプは同時に点滅も併用するとか、とにかく情報に冗長さを持たせてほしい。僕はよく利用する某所のトイレの赤色表示には密かに小さな傷をつけさせてもらった。ささやかな自己防衛なので許してもらいたい。

紅葉の美しさを鑑賞できない4.5%のためにいまひとつの思いやりを!


©1981 くしまひろし

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