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ポプラの秋
湯本香樹実ポプラの秋 (新潮文庫,1997年)
ISBN4-10-131512-4

この作者の「夏の庭」も「西日の町」も、老人が主人公でした。本書でもユニークなおばあさんが実にいい味で描かれています。

「ポパイのような顔のおばあさん」──つまり、口がくぼんであごがしゃくれた「くしゅん」とした顔のおばあさんは「私」が幼い頃住んでいた質素なアパートの大家さん。「自分が死ぬときにあの世に手紙を運んであげる」という奇妙な趣向が、父を亡くしてかたくなな少女の気持ちをほぐしていきます。「手紙を書く」という行為が人生の悲しみや苦しみを浄化するという側面をしみじみと感じました。すぐに応答が返ってくる電子メールでは決して得られない種類のコミュニケーションなのです。

落ち葉焚きと焼き芋、このおばあさんの堂々とした強さ、そしてよそいきの着物の樟脳の香り、どれもこれももう忘れてしまいそうな昔の感覚です。

本書は、母と娘の物語でもあります。時代を隔てて明らかとなる家族の秘密を受け止め消化するために、このおばあさんの不思議な役割が存在しています。そして、物語の終わりには、おばあさんに救われた人生が、「私」の回りだけでなく、数多くあったのだろうと想像してしまいます。そんな広がりのある、暖かい物語です。

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