養老孟司『いちばん大事なこと』 (集英社新書,2003年)
ISBN4-08-720219-4
『バカの壁』がベストセラーになった養老孟司さんが環境問題について発言している一書です。環境問題の前提としての工業社会を作ったのは人間なので、環境保護においては「人間対自然」という構図が現れることがあります。たとえば、西欧文化では人間と自然が対立しているのに対し、日本文化では自然と人間が共生しているという具合に。
でも、解剖学者としての養老孟司さんに言わせれば、人間も自然の一部であって、対立しているのは意識と自然と考えるべきだというわけです。意識で自然を支配できると考えたところに間違いがあり、自然は複雑系だから割り切れないということを知らなければならないというのが著者の主張だと理解しました。局所的な処方箋を適用しても全体の状況は改善されるどころか新たな負荷が発生するかもしれません。
そこでどうすればよいのかということですが、環境問題は地球全体という複雑系を支配しようとして「どうすべきか」を論じるのではなく、一人一人がどうしたいのか、どうありたいのかということを考えるべきだということなのでしょう。その積み重ねが問題の解決になるというのは単なる楽観主義とも言えますが、ある意味でそのような謙虚な姿勢こそ「いちばん大事」なのだろうという気もします。
帯にも引用されている「環境問題こそ最大の政治問題」というのは、「環境問題は科学の問題ではなく、人生観の問題だ」ということだと思います。