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掬水へんろ館ウマヤドの自転車遍路1人旅《8月22日 - 20日目・最終日》
8時20分、ホテルを出発。
11号を14キロ走って八十四番・屋島寺、到着。
遍路道はケーブルから500メートルも離れていて見つけにくい。
参道はコンクリに刻みを入れた上り坂。かなりの傾斜。
ケーブルの駅から2キロ登って屋島の観光地。
貸し自転車があって、遊べるくらい広い。

八十五番・八栗寺(やくりじ)は屋島寺から8キロ。
町の中を走った。山門までの遍路道は変化がなくてつらい。
ケーブルがある。自転車にはきつい勾配だ。
コンクリートの崖に沿って上った。
寺の裏に大きな岩山がある。あれが五剣山か。

12時20分、五剣山八栗寺から8キロ、八十六番・志度寺(しどじ)に。
町の中なのに閑静なお寺。寂びた太鼓橋と枯山水。鳩が退屈している。

今回、お世話になった本。

お四国する前に読んだのが、ひろさちやさんの
「四国お遍路こころの旅」日本実業出版社
ひろさんの文章は、やさしく、明解で、なるほどな、と、なめらか。

地図とお寺の案内に便利なので、ポシェットに入れて持ち歩いたのが、
「四国八十八所遍路」宮崎忍勝・原田是宏共著 朱鷺書房
前の寺のベンチでこの本を読み、次の寺に向かった。イメージがふくらむ。
汗で表紙もなくなった。遍路には必携本。

途中、どこかのお寺で買った本。
「四国霊場八十八ケ所巡拝詳細地図」カラムス出版 代表者仁木一郎
細長い本なので、頁を切ってその日の分だけポシェットにいれた。
歩き遍路には向かないが、自転車には便利だ。
広告もうまくレイアウトされているので情報として便利。

歩き遍路用の地図をみせてもらった。
なかなかなので欲しかったが買えない。1番に置いてあるのだろう。

1時30分、南へ7キロ走って八十七番・長尾寺に着く。
長尾町の町の中にある静かなお寺だ。
あと1つ、大窪寺でこの遍路も終わる。
ベンチに座って1時間もポケッとしていた。
お参りして納経をすませ、タクシーを呼んだ女性が隣に座る。
挨拶して雑談しているうちに、感情が切れたように喋りはじめた。
女学生だったら体育会系。

「不思議なことがありました。
明石寺(43番)を打ち終わって、フィルムを買いに
宇和町のおみやげ屋さんに入ったんです。
私を見て、ご夫婦が今日はうちに泊まっていかないかと。
あまえて、お風呂を使わせていただき、遅い夕食を。
お茶の間に入ったら、ピアノの上に写真が飾ってあるんです。
ご主人が、1年前に亡くした娘です、とおっしゃった時、
私、おもわず、白血病ですか、と、言ってしまったんです。

どうして、それを…と言われて、
私、わんわん泣いてしまいました。
だって、親友が白血病で亡くなり、その供養にここに来たんですから。
次の日、岩屋寺でその方の分もご供養していたら、
背中がばちっ!と、音をたててはじけたんです。
そのとき、ふっと、脱皮したなって思いました。
蝉とか蟹みたいに脱皮したんです。
そう思ってあたりを見渡したら、人が脱皮した抜け殻みたいなものが
沢山、見えたような気になりました。
それからは遍路宿でしくしく泣いていたのが嘘みたいに明るくなれました」

県道3号をしばらく行くとうどん屋がある。
トラックが2台とまっている。
運転手御用達なら美味しい筈。
途中でハンガーロックしないよう、うどんを食べることにした。
製麺工場の横に食堂があって、セルフサービス。
天ぷらと薩摩揚げを入れて290円、安い。そして美味しい。
さすが讃岐うどん。外に出て食堂の看板を探したら、入谷製麺と書いてあった。
ありがとう。おかげで元気になった。

3号線・川上。ギアを落として、ペダルを踏む。もうすぐ終わる。
3号線・前山ダム。一休み、風景が大きい。
3号線・前山峠。坂の連続、立ち漕ぎで上る。
3号線・栗栖。この坂はどこまで続くのか、バス停の駅名をチェックしながら。
3号線・相草。追い越したタクシーの窓からさっきの女学生。「がんばれ!」
3号線・額。稲光りが横に走り、激しい雨になる。雨具はホテルに置いてきた。

ルート377・槇川。
足摺のユースで夜、雨音を聞いただけ。
一度も雨に遭わなかった。
出発の有明埠頭と、最後の日。
激しい雷雨。雷が近くに落ちる。
せっかくの峠の下りもブレーキをかけないと危ない。

稲光りと落ちる雷。
誰もいない道を逃げるように走る。

最後は感涙にむせぶとか、汗と涙でぐしゃぐしゃになるとか、
そんなシーンをイメージしていたけど、とんでもない。
最後に雷に打たれたか、やっぱり、あいつらしいと、
みんなに笑われないためにも、逃げた。逃げた。
雨を避け、半分だけ開けた眼に、
八十八番・大窪寺の黒い影が、にじんで見えてきた。

- 終 -

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