ウマヤドの自転車遍路1人旅《8月14日 - 12日目》 |
6時、出発。足摺からの県道27号線、岬西回りは下りが多くて楽だ。
土佐清水でお弁当のおにぎりを食べていると、昨日のバイク青年に追いつかれた。
昨夜、自販機で買ったビールをロビーでひそかに飲んでいたら、
雨の中をバイクのカップルが入ってきた。
お互い、寝場所を確保してからロビーに来てモジモジしている。
ビールをすすめるとうれしそうに、
…大丈夫ですか?…内緒、内緒…それで打ち解けた。
ユースホステルはアルコール禁止。
大阪と愛知が高知で気があって、一緒にツーリングすることにしたそうだ。いいな。
そのバイク青年、名倉君と幸子ちゃん。2人が写真を撮ってくれた。
足摺から17キロの地点、サニーロードを右折して下川口から県道28号に入る。
杉の並木道、何度も小川を渡る、細くて風情のある道だ。
327号を宿毛へ8キロ、56号を右折、中村に向かって8キロ、
今日70キロ走って、11時30分、三十九番・延光寺(えんこうじ)に着いた。
これで高知・土佐のお寺が全て終わったことになる。
ここから愛媛の観自在寺までは30キロ。
行けるだろう、調子が良いから。
56号沿いの大ちゃん食堂で鰹のたたき定食。もう鰹はうんざりだ。
高知ではどこでも鰹のたたき。でも、たたき定食を頼む。高知の鰹はそれほどうまい。
歩き遍路の青年を追い越したが、なんとなく気になって自転車を降りた。
元気がない。
雑談の合間に聞いてみると、財布を宿毛の食堂のトイレに忘れた。
引き返しても、あるかどうか。
お接待。五千円札を渡して自転車に乗った。
こんなに…いいよ、君に余裕が出来たら他の人に…。
お接待されるのはうれしいけど、お接待するのもうれしいのだ。
お接待出来るゆとりがあるのだから。
終戦まもなく。少年の頃。クリスマス。
僕の靴下の中には虫下しが入っていた。
そんな、お菓子やおもちゃが欲しかったのに。
泣きべその僕に母は、サンタがあなたの体を気にしてくれているのよ、と言った。
ゆとりがあれば母だって子供の欲しがるものにしただろうけど、
あの頃、ビンボーだったもんな。母は悲しかったに違いない。
お接待出来るということに感謝しなくては。
ジャスト3時、四十番・観自在寺(かんじざいじ)到着。
石段を登り山門をくぐる。しばらく歩いて、ふと、振り返った。
山門がつくる四角いフレームの真ん中に交差点の信号が見える。
青から黄色に、そして赤になる。それが夕陽のように大きくなった。
どきっとした。赤信号が灯る。あれはこの旅の象徴なのか。
信号は当たり前のように青になった。なんだ、何考えてるんだ。
物事、悪くとってはいけない。
山門で切り取られた空間。うすくもやる御荘(みしょう)の町を背景に、
それほど信号の赤は美しかった。
ビジネスホテル光を見つける。今日の走行距離104キロ。
ビジネスホテルとは名ばかりで普通の遍路宿。
クーラー100円。自販機といい、この旅は100円玉の世話になる。
夕食は少し先の「インド人がつくるインドカレー」の店に行った。