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掬水へんろ館ウマヤドの自転車遍路1人旅《8月8日 - 6日目》
6時に起きて、歩いて二十四番・最御崎寺(ほつみさきじ)へ。
宿から25分の遍路道。
車の道もあったけど、螺旋状の凄い道。
おばさんのすすめもあって歩いて登った。
朝の山道は風情があって楽しい、が、途中、お地蔵様が多いのには参った。
ここで果てた人がいるのだな、との想いが走る。片手でお祈りする。
両手を合わせるには立ち止まらないといけない。
いちいちやってると時間がかかる。

お参りして宿に帰り、食事。無理して食べた。
出発。玄関に、どこかで見かけた人がいた。
そうだ、元阪神タイガースの小山正明投手。
「大阪からよく釣りにきます、良いポイントがあるんです」

7時30分に出て6キロ、20分走って海岸沿いの
二十五番・津照寺(しんしょうじ)に着く。
海に面している寺はここだけという話。
長い石段を2段飛びしている人がいたので話してみると、
アルプス横断のトレーニングだって。
親切に次の寺を教えてくれた。

8時、二十六番・金剛頂寺(こんごうちょうじ)の麓に着く。
ここから山の中を抜ける遍路道。
自転車を置いて登る。若い人なら15分と言われた。
17分でお寺に。2分だけ若くないか。
朝から28キロ走ってシーサイドハウスで休憩、11時40分。
難所と言われる二十七番・神峯寺(こうのみねじ)に着いた。

自転車を下に置いて歩いた。ここを自転車で上がる人は凄い!
水が冷たくておいしい。お持ち帰りどうぞ、ペットボトルを売っている。

難所の寺を打ち終わった快感は普通ではない。めちゃハイテンションだ。
もう今日はここで終わり。まだ1時30分なのに遍路をやめた。
下って、浜吉旅館に泊まることにする。
土間に岩ツバメの巣が二つもある昔からの遍路宿。
歩き遍路が、浜吉旅館は老夫婦でやっていたが、ご主人が亡くなり、
あとどのくらい続くのかなどと悲観的なことを言っていた。
お風呂はいつでも良いですよと言うおばあさんの気持がうれしくて
もう一度来たいなという気持になった。客は僕だけ。

荷物を置き、Tシャツに着替え、自転車で安田の町を散歩する。
浜で泳いでは駄目よ、と言われた。なるほど、潮の引きが強い。
石を洗う潮のざわめきが人の声に似ている。初めて、人が恋しいと思った。
日常の言葉以外、会話がない生活になっている。

町に出てカレーライスを食べた。食欲が戻り始めた。
安田川をのぼる。きれいな水だ。
誰もいないのでスッポンポンで川に入る。コンクリートの石畳、鮎が泳いでいる。
浅瀬に横たわると鮎が体にぶつかってくる。
もし僕が死体だったらこのまま鮎に食べられてしまうのだな、という妙な感覚。
もしかしたら、空海さんも同じことをしたのではないだろうか。
手で鮎をつかめる、でも、しない。この感覚で鮎と安田の川と一つになっている。
大地と一体化した気分。
流れが話しかけてくるので訳の分からないひとりごとを言っている。
今、僕はどこにいるのだ。

安田には土佐鶴本舗がある。大吟醸を買って久しぶりに酔った。
体の調子も戻ってきた。食欲が出てきた。うんこにこしが出てきた。
カツオのたたき。そうだ、ここは高知県なのだ。東京から1週間になる。
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