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掬水へんろ館ウマヤドの自転車遍路1人旅《8月7日 - 5日目》
朝飯が食べられない。無理してでもと、梅干しでお茶漬け。
受けつけない胃が戻しそうになる。口を押さえてこらえた。
牟岐(むぎ)の町で一休み。郵便局を見つけてお金を引き出した。
少し走って海南町の喫茶店、「じゅげむ」で生のレモンジュースとメロンソーダ、
無理してサンドイッチを食べた。初めての昼食だ。
55号線、薬王寺から42キロ走った。宍喰海岸がきれいなので休憩する。12時。
この浜辺は潮の香がとても強く快い。
今日、64キロ走って夫婦岩。二つの岩が注連縄で結んである。

冷やし中華の看板にそそられて食堂に入った。
無理してでも何か食べないと、今日で終わりそうな予感がした。足がつる。
中年のカップルが一組。

「冷やし中華下さい」

カップルの会話が入ってくる。
「吉田さんは奥さん、いるの?」
「結婚、しなかった」
「どうして?岩でもああやって結ばれているのに」
「いっそ、岩だったらよかったな」
「私は注連縄、切れたのよ、バツイチ…」

昨日のわたりの人のような洞察力が自分にはない。どんなカップルなのか?
冷やし中華がきた。「あの、からし、ありませんか?」「ありません」
えっ、四国の人って冷やし中華にからし使わないの?とたんに食欲がなくなる。
自分は冷やし中華ではなく、からしの刺激が欲しかったのではないか?

今日は手袋をしていない。そしたら手のひらが剥けはじめた。これはいけない。
室戸岬。2時30分、朝から77キロ走ったところで宿を探す。
なかなか見つからない。
遍路の地図に出ているホテル明星は一人客は泊めてくれない。
割高で一人1万7千円なら良いですけど、と言われてあきらめる。
観光地は遍路には向かないようだ。あと2つ断られて、民宿、飛巌荘に泊まれた。
愛想のないおばさんだけど、愛想を必要とする自分が情けない。
そんなふうに考える気分になってきた。
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