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掬水へんろ館ウマヤドの自転車遍路1人旅《8月4日 - 2日目》
自転車用のジャージは嫌いだ。派手で恥ずかしい。だから初日はTシャツと
短パン、テニスコートと同じ。でもTシャツは汗でベトベト、短パンの
ポケットの中もぐしゃぐしゃ。お金が使えないほど変形している。
今日は友人のアドバイスで持ってきたジャージとサドルパンツで
走ることにした。
ジャージの背中にはボトルが2本入るポケットがついている。これも
便利だ。自転車に2本、計4本のボトルが確保できる。

7時、出発。
遍路宿を出ると1キロの下り、爽快。その後は国道を通勤の車と一緒に走る。
11キロ走って8時20分、十一番・藤井寺に着く。
ここも人がいない。姫路から来た歩き遍路と話す。
夏は遍路宿の休みが多くて困る。目的の宿が休みだと町まで引き返すのがつらい。
自転車はいいなぁ。うん、自転車はいい。さぁ、最初の難関、焼山寺に向かおう。
梨の木峠を8キロ上る。あまりの激しさに自転車を降り、押して登った。
野ウサギが道の真ん中でこっちを見ている。
近づくと逃げ、距離をおいてまたこっちを見る。
何だ、不思議な国のアリスじゃないか。
ウサギを励みに、自転車を押した。登れば下る。鮎喰川沿いの下りが快適。
昨日の茶髪暴走族が河原で寝ていた。
おいおい、そろそろ起きろよ!あいつら、憎めない。
あんなことでどこまで行けるのか?
お前はどうなんだ。

峠を下り、茶屋の奥さんと話す。
「自転車は坂がきつかろう」
「野ウサギが引っ張ってくれました」
「ウサギはしょっちゅうじゃ、狸やムジナもおる。歩き遍路はマムシに噛まれおる」
「マムシ…」
「歩くのはほとんど学生さん。年寄りは車で回るから。体が効かんからのう。
自転車でお四国出来るのは健康だからじゃ。感謝せにゃ、あかん」
「…」
「また難儀な坂になるよ」

また上り坂。
焼山寺にあと6キロのところで番外、杖杉庵(じょうしんあん)にたどり着く。

杖杉庵、見晴らしのいい小さなお堂だ。自転車を降りて長椅子にへたり込む。
暑い、風が欲しい…。すると回りの幟がパタパタとはためき始めた。
「健康だから自転車で回れる…感謝せにゃぁ」
茶屋のおばさんの話を今頃になって、そうかもしれないと納得した。

十二番・焼山寺(しょうさんじ)に着いた。
坂本旅館を出て、45キロ、6時間。
大きな杉の木立に囲まれた幽玄な寺だ。そのたたづまいに押されて
初めて弘法大師の像に手を合わせた。ここまではビジター感覚だったのに、
何なんだこれは?町の中の寺は馬鹿にして、苦労して登ったから有り難いのか?
そういわれても…自然と手が合った。ミーハーだなお前も。うん。

焼山寺をあとに下った。自転車を漕がないですむ。
これが自転車の楽しさじゃないか、調子に乗ってスピードをあげたら、
後輪がパンクした。
農家の用水池を借りてパンクを直す。入念にチューブを検査していたら
薔薇の棘を見つけた。えっ?バラの棘でパンク。ロマンティックじゃないの。
でもパンクはつらい。自分で直したことがないから時間がかかる。
そこから32キロ走って、十三番・大日寺。

町の中のお寺で面白くないから足を伸ばす。4時30分、十四番・常楽寺に。
田園の中の素敵な寺、シュールな石がおもぃッきりアートしている。
常楽寺から700メートルで十五番・国分寺。
そこから2キロで十六番・観音寺。
十七番・井戸寺には流れるようにたどり着いたが、宿泊設備は工事中。町を探した。
自転車屋に「鱗楼」という旅館を紹介された。割烹みたいな造り。値段を交渉した。
5000円の部屋には避難器具設置室と書いてある。
ほかは、富士の間とか、桜の間とかなのに。変なの。
食事が食べられない。
あらあらこんなに残して!と、奥さんに叱られた。
すいません。食欲がなく、足がつる。
今日は85キロ走った。ペースを上げ過ぎてるかも。
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