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掬水へんろ館ウマヤドの自転車遍路1人旅《8月2日 - 出発》
発作かな、言ってみれば。
手のひらがむずかゆくなる。
空海を勉強した訳でもない。
長距離のツーリングも、したことがない。
お遍路なんて、変なものだと思っていた。
酒、飲んだ勢いか。

「四国、自転車で走ってみようかな」
「3日、もたない方に千円賭ける」
「そうね、無理だろう」
後は声がない。
「それじゃ、賭けにならないか」
「面白いわよ、やってみたら?」
「どこまで行けるかね」
「甲子園(高校野球)みたいなもんだ。負けたら帰ってこい」
「辺鄙な場所だと銀行、少ないから、郵便貯金のカードがいいよ」
「自転車にはメーターつけろ。時速とか、走行距離がわかって励みになる」
「弘法大師によろしく。最近何してるのかな、あの人」

飲み友達が暖かい茶々を入れる。

言っちゃったから、やってみるか。2週間悩んだ。
でも、郵便局のカードをちゃんとつくってる。やる気かな?
自分でもわからない。少ししてまた発作が起きる。
8月2日、自転車で家を出た。

東京都狛江市から有明埠頭に自転車で向かう。
こんな長距離走ったことない。
途中から夕立。雷が止めろ!止めろ!と威嚇する。
有明埠頭がわからない。車だと標識があるのに。
おなかがすいた。船に乗る前においしいラーメンでも
食べようと、余裕を持って出てきた。
自転車用の標識が出ていないことに腹が立つ。出航に間に合わなかったら
どうするんだ!いらいらも限界に達したとき、
あれ?なんか自分勝手かな、と、気がついた。
全てが自分のためにあると思ってる。悪い癖だ。

有明埠頭フェリーポート
当然、レストランがあると思ってたのに、ない!
「みなさん、フェリーの中で食事されます」
はい、我慢。グチャヌレをトイレで着替えてフェリーに乗った。
夜7時20分。有明埠頭からオーシャンフェリーで徳島、津田港へ
向かう。
さっそくレストランへ。
えッ?出港してから30分?
イライラしながら大部屋。
30分は過ぎ、再び。
レストランは満杯で50人以上が並んでいる。
待ち時間40分?冗談じゃない。そんなに待てるか!
いいか、俺はな、40分も並んで、飯、食ったことなどない!
そんな店で食事など!
おい、空海さん、試練とか言うなよ。
自販機でポテトチップスを買って、バリバリ食べた。やっぱり、馬鹿だった。
遊び半分でこんなこと、するんじゃなかった。あれは飲み屋での勢いだ。
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