掬水へんろ館目次翌日著者紹介
掬水へんろ館

はじめに

 平成4年春、私は「ベトナム旅行」に出かける準備をはじめていました。知り合いと、その友人のカメラマンと共に、観光では決して見ることのできない、素朴で美しい「素顔のベトナム」に会いに行くつもりだったのです。
 しかしその旅は「まだ多くの地雷が残るその地への立ち入りは、許可できない」という相手政府の拒否にあい、あえなく断念。

 思い切って確保した2週間もの休暇の使い道に悩んでいた私のところに、『四国遍路』の情報が、あちらこちらから流れ込んできました。たまたま手に取った雑誌に「四国88カ所参り」の特集記事があったり、テレビやラジオから「お遍路」の話が聞こえてきたのです。
 「休暇の使い道」ばかりでなく、自分の「生きる道」にも迷いの出はじめていた私は、なぜか、「四国に呼ばれた」と確信。そこに何か「答え」があるのかどうかはわからないけれど、とにかく、着替えと歯ブラシ、文庫本『空海』上下刊をリュックにつめて、何の計画も立てず、四国に向かったのです。

 こうして、思いつきのように始め、2週間で完結するはずだった『四国遍路』が、8年がかり、まして、全行程1400キロメートルあまりを、自分の足だけで歩ききることになろうとは、その時、まったく思ってもみませんでした。
 普段は、バスひと駅さえ歩かない、歩けない私が、山を越え、谷を渡り、88の札所を巡り、なんとか無事最後まで歩ききることができたのは、自分でも「奇跡に近い」としか思えませんが、それは、四国の美しい自然と、そこに住む人々の、信じられないくらいの「遍路へのあたたかい接待の心」のお陰に他なりません。

 「遍路旅」は、毎日が、「出会い」と「不思議」「感動」の連続。そこには、「疲れた人」「傷ついた人」「何かを探している人」「迷っている人」「寂しい人」・・・・。どんな人をも受け入れ、包み込み、癒してくれる、そんな不思議な魅力があるようです。

 人の情けに泣き、犬や花と遊び、歌を唄って山を登った、「泣き笑い」の「遍路旅」、どうぞ一緒に楽しんでください。

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