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掬水へんろ館

平成11年『自分探しの旅』
【9日目】(通算51日目) 4月23日(金)[ 雨のち曇り ]

 さすがに、ゆっくりと眠って、気持ちよく起きることができた。
朝シャワーして、大きな鏡の前に座って準備する安心感と幸せ。
やはり「ホテル形式」が、私には向いてるかもしれない。

 食堂(レストランと言えないところが、ビジネスホテルらしい)で、洋風(パン)朝食をいただきながら、食堂のおばさんに、これから行く屋島や八栗山のことをイロイロ教えていただいた。
 ホテルマンは無愛想だったけど、おばさんは、とてもやさしくして下さって、気持ちよく出発できた。

朝のゆとり

 今日は雨。またまたカッパのお世話になる。
(きのうは喝破のお世話になった。・・・何のこっちゃ)

 街なかの商店街をひた歩く。
ここはけっこう都会のようで、大通りの信号機に、「あと何秒」という、待ち時間が出た。(大阪以外にもあったのねぇ、せっかちな街が)
通勤通学の人がわんさか歩いている。自転車組も多く、やはり私は「場違い?」という感じ。本当にみんな忙しそうに歩いているんだもん。
 自分も歩いてるのに、何だか一人「異次元生物」のような気がした。
店はもちろん、歩いていく「人」までが、「景色の一部」に見える。
みんなひたすら前を向いて、ダッダッダッと行進してゆく。ちょっと恐かった。
 そんな中で、とうとう私と同じ「次元」に見える人を発見。
犬を連れて、のんびり朝の散歩をしているおばさんだ。薬局の看板にオシッコしようとする犬をたしなめながら、丁寧に道を教えて下さった。
やさしい親切な方だった。
 やっぱり「朝のゆとり」は大切よね。

「愛」のない交番

 ちゃんと言われた方向に歩いていたのに、また不安になって(町中では方向がすぐわからなくなるのよ)、今度は「交番」に入って訊いてみる。
 朝から4人も警察官がいて、ヒマそーにおしゃべりしてたのに、何だかとっても「無愛想」。私が入っていった時も、なんだか「うさんくさい奴」という顔で横目で見るし、イスにふんぞり返ったままなのだ。
 道は教えてくれたものの、ぜんぜん「愛」がない。警察官に愛してもらいたいとは思わないが、もう少し「親切そう」にしてくれてもいいのに・・・。
でも、カッパ着てるし、遍路ったって「何者」かわかんないし、けーさつは「疑う」のも仕事だし、ま、道教えて下すったんだから、それでいいじゃないか、と思い直した。
 どうも、誰にでも「愛想」を求めてしまう自分の方がイケナイ。反省、反省。

 しばらく行って、屋島の登り口方面へ向かう曲がり口に、前に、尼さまに教えられていた「不動尊」があったので、「お詣り」させていただく。
自分でお堂の扉を開けて、座敷に上がって線香をあげる。
遍路も終盤になると手慣れたものだ。私も少しは成長しているのかな。
 カッパを脱いで、しばらく雨を眺めていると、なんと愛ちゃんが、橋を渡ってこちらへやって来るのが見えた。(おやまぁ、よっぽど「縁」があるのねぇ)
彼女は私より先の宿にいて、私より早いか同じくらいの時間に宿を出てるはずなのに、なんで後から? と思っていると、愛ちゃんはすぐ私の所へやってきて、「説明」にはいった。
「コインランドリーで洗濯物乾かしてたら、こんな時間になっちゃった」んだそうだ。(なるほど)

同じ「次元」

 結局、またまた「道連れ」になって歩く。
わいわい話しながら行くので、何度か道を間違えたが、何とか「屋島山」の登り口に到着。ひらぺったい、おもしろい形の山だ。
山頂から中腹までを、横にスパッと切り取ったような、まったくの「台形」。
「誰が切り取ったのー?」って言いたくなる、日本昔話に出てくるような山なのだ。おもしろすぎる!
 で、「こんな低い山、へっちゃらよ」なんてなめてかかってたら、これがなんの、けっこうキツかった。何度も何度も立ち止まりながら、少しずつ登る。
 また、元気な愛ちゃんをつきあわせて、申し訳ないことだった。

 ようやく第84番札所「屋島寺」到着。大きなお寺だ。
すぐそばに水族園や公園もあって、完全な観光コースになっている。
 遍路以外の団体さんも、続々入って来た。団体さんの後ろのほうから、「控えめにお詣り」という感じで、なんとなく落ち着かない。
でも団体さんたちは、朝の通勤風景と同じで、異次元の世界を通り過ぎて行くように、現れては消え、現れては消えしてゆく。
 カメラのシャッターを開放にして撮影した映像のように、移動する人々だけが
「透けて」見えた。

 私だけが違う世界にいるのか、と感じて少し不安になりかけた時、遠くで、愛ちゃんが笑っている姿が、はっきり見えた。
 彼女とは、同じ次元にいたようだ。(ホッ)

「弁天さま」の答え

 大きな七福神の像が並んでいたので、妙にひかれて、その前に立ってみる。
「弁財天」の前で、じっと立っていると、後ろの木々が、激しくざわめいた。
弁天さまは「芸能」の神さまだ。「私は、このまま今の道を進むべきなのでしょうか」と、心の中で訊いてみる。
突然、今までより大きな風が吹いて、木がいっそうザワザワ揺れた。
「答えて下さった!」
 でも、それが「イエス」だったのか「ノー」だったのかは、わからなかった。(「もう少しがんばれ」、と解釈することにした)
 境内では、団体さんや観光客の人たちで落ち着かないので、お寺の外に出て、石段に座って愛ちゃんと昼食タイム。
 また犬が出てきたので、パンをおすそわけする。

 また、愛ちゃんと歩きはじめる。
石畳の下り坂で、愛ちゃんがしょっちゅう滑るので、気が気じゃない。
この子は私と、とてもよく似ている。けっこう注意力散漫なのだ。(ごめんね)
でも、本当に、素直な良い子で、B型(血液型)特有の「のびやかさ」がうらやましいくらい。(私は、誰も信じてくれないけど、A型なのよね)

「落ち葉」吹き飛ばし機

 ハードな行軍になるかと恐れていた、第85番札所「八栗山」には、あっけないほどラクに到達。ちょっと拍子抜けしたが、元気なまま今日の「最終寺」に着けてよかった。地味だが、山の古寺の「侘び寂び」を感じさせる、落ち着いたお寺だ。

 でも寺内には、「ぶぉーんぶぉーん」という不思議な音が鳴り響いていた。
音源に近づいて、びっくり。
 落ち葉掃除のオジサンが、電気掃除機とは反対の原理(吸い込むのではなく、風が吹き出る。つまり「ドライヤーのでっかいの」みたいな)の器具をかついで、「落ち葉」をブオォーンと吹き飛ばして歩いていたのだった。
愛ちゃんと、思わず駆け寄る。
 あんまり2人で見つめるので、オジサン、スイッチを切って説明して下さった。大きなお寺で、木々も多い、落ち葉も多い。いちいちホウキで掻き集めて処分することもできないので、参道に落ちている葉っぱは、下の谷間に、どんどん吹き飛ばして、落としてしまう、のだそうだ。納得。 
 静かなお寺に、「落ち葉を掃く音」ではなくて、「落ち葉を吹き飛ばす音」が、いつまでも響いていた。(やってみたかった)

 まだ少し元気、時間もまだ午後3時過ぎ、そこへ愛ちゃんの「もうちょっと進みませんか」という「誘惑」もあって、宿を、予定より先へ延ばすことにした。
 ここから、7キロ。また下界へ降りてゆく。

つきない好奇心

第85番「八栗山」で愛ちゃん(左)と

 85番寺の登り口付近には、「石像屋(?)」さんがいっぱい。
鯛を抱えた恵比寿さま、端正な顔立ちの観音さま・・・。仏像ばかりではない。
白雪姫やミッキーマウス、かわいい動物たちの彫刻、丸い石にそのまま名前を彫った表札・・・。仏像からオブジェまで、石の芸術があちらこちらに並んでいる。
好奇心の強い女遍路2人は、また興味津々。
いちいち立ち止まって見学するので、なかなか先へ進めない。
 ある「工房」で、研磨機を使って実際に彫刻しておられる姿に見とれていると、その方が出て来られて、お話を聞かせて下さった。
「仏師」というより「彫刻家」といった感じの若い芸術家だ。
 この辺の「工房」では、近くで採れる「アジイシ」という石を使って、石仏や工芸品を造っているのだそうだ。石の彫像は、大きな物で、制作に25日くらいかかるのだが、最近は不景気で注文が減っているという。
 しばし歓談して、また創作活動に戻っていかれた。(おじゃましましたー)

 このあたりから、なぜか2人ともドッと疲れが出たようで、宿までの道のりが、えらく長く感じられる。私の左足首もまた疼きだし、最後には両膝に痛みがはしる。
 愛ちゃんは「おなかすいたー! おなかすいたー!」、私は「足いたいー、足いたいー」とブーブー言いながら、それでもただただ「歩く」。
でも、そんな私たちを励ますように、会う人会う人が、訊かなくても道を教えて下さり、「がんばれ」と激励して下さったのが、とても有り難かった。

 ホーホーの体で、やっと辿り着いた宿は、86番「志度寺」の少し手前、「地蔵寺」という小さなお寺の向かいにある「たいや旅館」。
 おじいちゃんとおばあちゃんの2人だけでやっておられるようで、「お食事はできないんですよ」とのこと。でも、部屋はとても清潔に整理整頓されていて、気持ちがいい。私はベッドの部屋、愛ちゃんは畳の和室に入って、ひと息。
 お風呂にもまた2人で入って、近くにあるJR志度駅前のコンビニまで、買い物に出た。2人とも「食料」を大量に買い込む。夕食分、明日の朝食分、昼食分、非常食と、「そんなに食べられるの?」というくらい、おもいっきり買った。
私たちは「食べる物が何もない」という状態に、よほど懲りているようだ。
 愛ちゃんの部屋で豪華ディナーをして、今日のがんばりをお互いにほめあう。

 明日は、どこまで行こう・・・。
一気に88番まで行く根性はないし、その手前で宿をとると、明日は7キロしか歩かないことになってしまう。
 うーん、・・・困った。

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