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掬水へんろ館

平成8年『野宿』
【5日目】(通算31日目) 4月29日(月)[ 曇り ] 

 Nさんに見えないところで着替えて、遍路姿に変身。もう一度佛木寺にお詣りさせていただき、野宿のお礼を言って、きのうのおじさんの娘さんの、いっそうの回復をお祈りした。
 おじさんは早朝からまた私たちのこと見に来て下さって、今度はお餅を下さった。重ね重ねのご厚意、本当にありがとうございました。

 またNさんと2人、元気に歩きはじめる。今日は曇り空。「昼から雨」なんていってたが、大丈夫かなぁ。
 とりあえず歯長峠に入る。登りはまあまあ、下りはダラダラとけっこう長かったが、歌を歌ったり、お経を唱えながらゴキゲンに進む。「導引大師」にもお詣り。

 午前11時には第43番札所「明石寺」に到着した。私にしては早い。お詣りしたあと境内の中の食堂で「大師うどん」を食べ(Nさんがお接待して下さった)、食後ものんびり。私は今日は少しズルをして、ここから4キロほどのビジネスホテルに宿をとることにした。Nさんはもっとがんばって、「あと21キロくらい歩く」とおっしゃるので、お寺で見送ってお別れした。昨夜は本当にお世話になりました。
 大師のお導きとはいえ、貴重な体験をさせていただきました。一人では決してできなかったことだと思います。どうぞ、この後もお気をつけて。

Nさんのこと

 Nさんとは、後日大阪で再会する機会があった。でも彼が、自分の会社の人たちに今回の「野宿」の話をした時、「一緒に野宿した女の子(私)が、夜中にボクの寝袋にもぐりこんできたんだ」なんて言ったというので、ビックリした。
 あのねー、私たち随分離れた場所で寝てたんだけどー。遍路はウソついちゃいけないのに、何でそんなこと言ったりするかなぁ。「その方が、話がおもしろくなるから」だって。私のプライドはどうしてくれるんだ、失礼しちゃう。
 何だか釈然としないが、後で会社の人たちに「嘘つき!」なんて責められても気の毒なので、本名はやめて「Nさん」にしておいた。(いい人なのになぁ・・・)

神社は異空間

 午後4時にならないとチェックインできないというので、しばらくお寺で遊んで、1時半には出発した。しかしこのままだと2時半には宿に着いてしまう。なるべくゆっくり歩いたが、それでも早い。山を降りてからも、車の小団体遍路さんから缶コーヒーをいただくわ、沿道の皆さんに励まされるわで、ちょっと辛かった。今日はもうたいして歩かないので、あんまりエラくないのだ。

 あと1キロで着いてしまうという所に「神社」を見つけたので、時間つぶしさせていただくことにした。古い神社の階段を上がる。
 少し上がっただけなのに、そこは周囲とはまったく違う空間だった。人気もなくシンとしていて、樹々の息づかいだけが聞こえる、時間の止まった世界のようだ。
 賽銭を入れて「休ませてください」とご挨拶。お宮の軒下で、日記なぞ書いてみるものの、すぐにウトウト。書きながら居眠りしてしまうのだ。で、風の冷たさにブルッと目が覚める。イカンイカン。
 このウトウト、ブルッを数十回も繰り返した。昨夜は野宿だったので、お風呂に入っていない。汗でドロドロの上に、夜露などで、着物が湿っているので、身体が冷える。寒気がしてきたので、3時には、神社から撤退した。しかし、あと30分は時間つぶししなきゃならない。

突然のホームは、じじばばの鈴なり

 近くにあったJR上宇和駅に行ってみた。待合室でジュースでも飲んで、と思っていたのに、何が何が! 待合室どころか、駅舎もない。街のはずれに、突然「ホーム」。(プラットホーム!)「駅」なんてもんじゃない、切符売り場も改札もない。突然、「ホーム」なのだ!(しつこい?) 
線路の前にカベが建ってて、申し訳に階段がついてるだけ。そして、ホームの椅子には(時刻表を見ると、まだ50分以上も電車は来ないはずなのに)、ジイちゃまバアちゃまが、鈴なりで井戸端会議をしておられた。
 もうネコの子だって座れないくらい、ぎゅうぎゅうの「老人会」なのだ。仕方ないので、早々に退散。かなり早いけれど、宿に逃げ込んだ。

 「宇和パークビジネスホテル」。 
 結婚式場もあるりっぱなホテル(宇和パークホテル)の方ではなく、私は、「5000円ならこんなもんかなぁ」という感じのビジネスホテルの方だったが、ホテルなのに、まるで民宿にでも泊まったような、やさしい応対を受けた。とても親切な従業員のオバサマがいらして、いろいろ面倒をみて下さったのだ。私が「歩き遍路」と知ると、食事のあと、缶のお茶をお接待して下さったりもした。やはりご自身も四国参りをされたそうで、何かと気にかけて下さる。毎日毎日優しい人にめぐり会えて、私はなんて幸せなのだろう。しみじみそう思う。

れんげ祭りは夢の中

 今日は年に一度の大きなお祭り「れんげ祭り」なのだそうで、ホテルの前一帯に広がる田んぼのまん中、あぜ道みたいなところに出店が並んでいるのが見えた。広い広い青空のもと、土の香りのする素朴なお祭り、といった感じだが、私は「洗濯」で忙しいし、眠くてしかたない。お祭りをのぞきに行く元気はなかった。
 乾燥を待っている間にも、すぐ眠ってしまいそうになる。明日どこまで歩くか、もう帰ろうかと地図を見ながらあれこれ検討しなけりゃならんのに、すぐ居眠り・・・。
 助けてくれー、落ちていくー。

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