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掬水へんろ館のらくら遍路日記〜伊予(後)・讃岐/完結編篇
北村 香織
第6日
8月8日(水)晴れ (土居町〜椿堂・常福寺)

  5:00UP。階段を下りるとメモつきのお弁当が置いてあった。感謝感激で胸が詰まってしまう。私はお遍路での宿には本当に恵まれている。女将さんは「食堂までは無理でも、この宿は続けたい」と仰っていた。おじいちゃん夫妻が早く元気になりますように。女将さんご一家も幸せでありますように。国道を歩いているとすぐに日が昇ってきた。真っ赤な朝日。よぉーし元気出てきたー!と思ったら、ちょうど新聞を取りにこられたおじいちゃんに遭遇、挨拶すると「今からお茶飲むんやけど、飲んでいきますか?」 はい、よろこんで〜。5分と歩いてないのにお言葉に甘える。ここは大きな植木屋さんで、招き入れられた事務所には立派な盆栽がずらり。熱いお茶がまた身体に染み渡っていき、活力を与えてくれる。

 が、延命寺に着いた時は汗のかき方がちょっと尋常じゃないし、頭も痛くて、有名な松のそばで20分以上も休憩。鏡を見たら、顔もやつれてヒドイ有様。Fさんから電話が入る。早朝に発って、車で高速を飛ばしてきたらしい。今日の予定は椿堂まで。なので川之江に車を置いて、タクシーで国道をこっちに向かうとのこと。頑張らなきゃ。UPして国道を行くが、なかなか合流できない。長津のコンビニでようやく合流、初めまして。

 Fさんは「のらくら―――」を読んでメールを下さって以来、時々メールのやりとりをさせていただいている、大学生の子どもさんがおられる看護婦さん主婦。実際にお目にかかるのは初めてで、ちょっとドキドキワクワクだったけど、すごく可愛らしくて(失礼かな?すいません)看護婦さんらしくスピーディな方だった。(歩く速さはちょうどいいぐらい…)Fさんはハイキンググループか何かでお遍路を始め、今は阿波一国終えられたとか。病院のことなど話は尽きず、朝の不調もどこかに吹っ飛んで、なかなかよいペース。Fさん様々だ…。今日もものすごいお天気。お日さまが容赦なく照りつけ、Fさんも激務の合間のお休みだけにやっぱりキツそう。私もかなり消耗だ〜〜〜。バイパスになって遍路マークが少なくなり、とうとう見当たらなくなってしまう。休憩がてら寄ったスーパーで、親子3代でお買い物に来ていた地元の方に道を教わった。もう東予の端、言葉がちょっと面白い。四国4県の言葉がスクランブルしたような。Fさんの香川弁もまた新鮮で、いよいよ讃岐も間近なんだ…と初めて実感。

 三角寺への登りはなかなかキツかった。チャリンコ中学生も押して歩くしかない急勾配。山道はほんの一瞬だけで、炎天下のアスファルトにFさんがついにダウン。恐らく発汗作用がフル回転…で服がビッショリになり、次々わき出る汗と熱が発散できずに気分が悪くなってしまったのだと思う。幸いほぼ登り切っていたので、後は梢の涼しい平坦な道。道路脇で昼食がてら小休止を取る。女将さんのお接待のお弁当はものすごくおいしかった。おかずも色々入っていて、しかもお弁当箱に巻いた熨斗紙には心温まるメッセージまで…。Fさんも少し元気回復の兆し。そして私もこのお弁当のお陰で以後完全に食欲復活、最終日までうなぎのぼりで元気復活!できたのだった。

 休憩中は三角寺でタクシーを呼んで帰る…と言っていたFさんも体調と相談した結果、椿堂まで歩くことになった。下りは直射日光地帯がさほどでもなく、めちゃ順調。5時前には無事到着できた。タクシーを呼んでもらい、Fさんとはひとまずここでお別れ。でも「善通寺まで来る時はF家に泊まっていって」と言って下さるお言葉に甘える予定なので、またすぐ会えますね! Fさんがお昼に買ったパンをいただいてしまった。これが晩ご飯と朝ご飯になって、本当にありがたかった。

 通夜堂に移動し、若奥さんにお風呂とお洗濯のご厚意をいただく。シャワーを気持ちよく浴びて、お堂を出ると(お堂の奥にお風呂がある)なんとスコール?!と見まごうばかりの大雨。しばし唖然として庇からだくだく流れる雨を見ていたが、ハッ。通夜堂の窓、全開やん! そこに置いてあった傘をお借りして走ったが、果たして…。ああ〜部屋の中びちゃびちゃ…。お布団も少し濡れてしまった。私も通夜堂に戻るだけで下半身びちゃびちゃ。こんな豪雨久しぶりだ。若奥さんに新聞紙をいただいて床と靴に敷く。本当にラッキーだったと心から思った。だって岡田さん(民宿)まで行っていたら、絶対にこの雨にたたられて何時に着けたか。若奥さんが差し入れして下さった熱いコーヒーとスイカも、Fさんにいただいたパンも本当においしくて、幸せなひとときを味わった。机にあった木の葉書を1枚いただいて、初めて今の家族にメッセージを書く。この葉書は、ここ椿堂の通夜堂にもお世話になった青年遍路さんが北海道で事故で亡くなったことから、お遍路の同行さんが亡くなった彼の直筆メッセージを使って作られたという、想いのこもった貴重なもの。ギィやんと相方の存在が、いつになく大きく、感謝の念がこみ上げてきて、文面は相変わらずおちゃらけだけど心を込めて書いた。ありがとう、留守を守ってくれて。ありがとう、いつも好きなことさせてくれて…。私がこれまでお四国を歩いてこれたのは、相方の縁の下パワーだよね。あと1週間ちょっと、もう少しよろしくね…。

 雨はやんで空にうっすら星の影。川がごうごう流れる音が子守唄になって、すうっと眠りに落ちた夜だった。

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