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掬水へんろ館のらくら遍路日記〜土佐Vおよび伊予/菩提道場前篇
北村 香織
第3日
5月1日(火) 曇り (アサヒ健康ランド〜観自在寺〜ホテル・サンパール)

 いつのまにか部屋が冷えびえとして、目が覚めると同室していた2人の女性はすでに発っておられたよう。とりあえず朝風呂でしっかり目を覚まして、7時15分、小雨霧雨の中しゅっぱーつ。前方にお遍路さんが2人見える。ようやく追いついたと思ったら、なんとおっちゃん遍路さん立ちション中。しつれいしました…とばかり追い越すしかない。このおっちゃん、一昨日たぶの木で一緒になった大阪のおっちゃんだった。後から追いついてこられ、同行する。泉谷しげるをもっと一般化して飄々とさせたような感じの人なので、勝手に「シゲル」と命名、本のらくら――ではそう呼ばせていただきます。

 シゲルちゃんの前に青いポンチョのお遍路さんらしき人影。私たちも速度としては決して遅くないのに、さらに速く追いつかない。やっと宿毛の市街を通り抜けた所で追いついた。笠を取って振り返ったお顔は実に中性的で、会話してもいったい男性なのか女性なのかハッキリしない。リボンの騎士のサファイアにそっくりで、私は密かにそう呼ぶことにした。サファイアちゃんは同行は何となく敬遠してはるような雰囲気があって、独りサッサと歩かれる。私たちがコンビニに昼食を買いに行った間にまたも距離が開いてしまった。里の生活路地を抜けて、いよいよ峠への登り口。途中石畳もあって風情のある道だった。10時半、松尾大師址に到着。キレイなトイレの向こうに作業場があって、ちょうど屋根が付いたばかり…といったところらしい。あの有名な高見真宏さんがその場におられ、少し会話も交わして、ナカムラさんにいただいたお金から喜捨させていただいた。ここからは登りもなく、緑しっとり柑橘や花の香りいっぱいで歩きやすかった。ただ雲の厚さで周囲が暗くなると、連れがあってよかったーと思わずにはいられない。宿毛の海と山の絶景。晴れていたら…とちょっと残念。じきに県境の標示が現れた。とうとう伊予の国に入ると思うと感慨深い。シゲルちゃんはサファイアちゃんに追いつくべく、ガンガン飛ばして歩く。一本松の商店街でようやく再度キャッチUP成功。思ったよりは同行を嫌がってはいないかも? どうも女の子のようだ。でも材木資材置き場でお昼にするという私たちとは別れて、彼女はひとり先を歩いていった。その代わりに赤い輪袈裟のおっちゃんが参陣、いっしょに丸太の上でお弁当にする。彼は昨夜シゲルちゃんと同宿だったらしい。40番にお参り後、打ち戻って篠山経由で41番に向かうつもりとのこと。宿がないことをしきりに口にしつつ、でもこのコースにはこだわりがあるみたい。サッサと食べてサッサと発って行かれた。ここでシゲルの訓え。「食後はしっかり休憩を取らな、せっかく取った栄養がムダなところに行ってしまう。」なので私たちはしっかり昼休憩を取ってUP。小さな集落を縫ったアスファルトのカーブ道をダラダラ行く。シゲルちゃんとは大した話をするわけではないが、一緒に歩いてもらっているだけでその存在が有り難い。商店を通りすがりにシゲルちゃんが「アイス食うか」とお接待してくれた。ちょっと懐かしいコーンにまるいアイスの乗ったやつ。透明な蓋に動物の顔が描いてあって、私はネコの顔のを選んだ。が、この蓋が取れず、結局店のおばあちゃんに取ってもらった。その時の衝撃でコーンが3つにバラバラ…。舐めながら歩く。このアイス、ものすごく凍ってて、私のコーンは底抜けだから必死で食った。冷たさに口の中が麻痺状態。でもおいしかった! シゲルちゃんが宿の予約で電話中、外で待っていると、これまたたぶの木で最初にご一緒した夫婦遍路さんが通って行かれた。以後、毎日のように顔を合わすことに…。

 14:55、40番観自在寺着。山門にサファイアちゃんがいて、手を振ってくれた。納経所のおじいちゃんもやさしげで、よう頑張ったね〜というようなことを言ってくれる。本日のお宿は、実は出発前からお不動さんが予約して下さっているホテル・サンパール。GWにお遍路する私の宿を心配して、彼が先月泊まったところに片っ端から予約を入れて下さったのだ。GWの宿の混雑は一応念頭にはあったものの、生来のらくらで場当たり主義な私は何の手も打たず、なるようになるやろ〜とのんびり構えていた。が、手を尽くしてくれたお不動さんから「4日だけはどこも満室でどうしようもなかった」と連絡をもらって初めて少し慌ててしまった。結局テントを敷地内に張らせてもらえることになって、他はすべて予約が取れたのでこの度はテントも持たず(4日は直接宿にテントを送る手筈)、この悪天候の中ほんとうに助かっている。

 シゲルちゃんとはホテルの手前で別れ、私はかなり早めのチェックイン。向かいの甘味処にとっても惹かれる…。でも洗濯中で服が全然ないのよ〜。じきにご飯の時間になって、すごい豪勢な品々を<え〜んかなぁ〜>と思いながらひとり味わう。お不動さんにもナカムラさんにも、私は全然こんなにしてもらうようなことしてないのに…。でも今私ができるのは、このおいしいお料理を残さずしっかり食べることだけ。(なんか場違いな気もするけど)それしかお不動さんのご厚意にも、お料理してくれたスタッフの人にも、命を提供してくれたお魚さん・貝さんに報えないもん。本当に本当にごちそうさまでした。

本日の歩行距離: 30.2km
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