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掬水へんろ館のらくら遍路日記〜土佐・修行道場篇 (本篇U)
北村 香織
第9日
3月24日(土)くもり

5:00起床。朝食後にコーヒーを淹れて下さった。ここは某メーカーの認証店みたい。ブレンドの好みなのか、申し訳ないけれどもこの日は、星空さんで朝いただいたインスタントの方がおいしく感じてしまった。ある方が以前して下さった話を思い出す。それは重度の自閉症の子が灯油をおいしそうに飲んだのを見て、人間の味覚は神経じゃないと思った、という話。このお宿もよかったけれど、昨日の朝のあの場の空気がそれ以上に私にとっておいしかったのだろう。6:30 UP。山の端にちょうど朝日が顔を出そうかというところ。思わずじっと立って目に焼き付ける。日常は朝に全く弱いが、実は私は夜が朝に変わっていく、その世界が大好き。空のグラデーションも、そして光が徐々に開けていくのも、なんとも言えない安心感というか安らぎを覚えてしまう。

最初ゲッと思った遍路みちは歩きやすかった。中浜からのもそうで、適度に手入れがされているのがいいみたい。(有り難いことです)

思ったより早く9:15足摺港着。切符を買って出航まではのんびり。11:20出航。船に乗るとデッキに出て風にあたるのが私個人のお約束。でも港から外海へと出るにつれて、凄まじい風が吹き付けてき、顔が上げられない。昨日行った臼碆の灯台を拝んで、仕方なく船室へ引き揚げた。窓からずっと眺めていると、本当によくこの距離を歩いたものだと信じられない思い。足摺岬灯台が見えなくなっていく。天気のせいか季節のせいか、陸地はたちまち霞のヴェールに閉ざされていく。やっぱり私にとって四国は夢そのものの世界だと思った。このフェイドアウトの仕方も…。また今回は初めて海上のルートを取っているのも、深層心理学的にはとても示唆的。。。そしていつものようにそのまま寝入ってしまった私なのであった。

甲浦着16:40。目が覚めて見たTVのニュースで安芸灘で大地震があったことを知った。

高知も震度5、みんな大丈夫なんだろうか?実家は?慌てて電話を入れてみたが繋がらない。何度やっても同じなので夜にかけ直すことにして、お世話になった歩きの方や民宿の方のご無事を祈るだけ。幸い後日、私の周辺のみなさんには大事無いことが分かり、ほっとした。甲浦を出航する頃には雨もぱらつき、真っ暗。陸影はあっという間に靄の中へ。

なぜだか、松田聖子の古い歌「瑠璃色の地球」が口から出てきた。

「夜明けの来ない夜はないさ あなたがポツリ言う … 」 2番は若干忘れかけていたりしていたのだけれど、歌詞のすべてが、そのときの私の世界にあまりにもぴったりくるものだったので、何度も何度もリフレインして口ずさんでいるうちに完璧に思い出してしまった。

(著作権の問題で、全部を引用できないのが残念!)窓の外が闇に包まれてしまうと、またまた私の意識も靄のなか―――。


今回はあまり動物たちとのご縁はありませんでしたが、その分、いやそれ以上に、多くのいろいろな方々と出会い、時空を共有できたことを心から仕合せに思います。今回の旅は恐らく私の人生に残る大きな、そして深い旅でした。この遍路の旅が今後、どのように私を方向づけていくのか、今から楽しみに思っています。(H13.4.8)

のらくら遍路日記〜土佐・修行道場篇 おわり。

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