掬水へんろ館目次前日翌日著者紹介
掬水へんろ館のらくら遍路日記〜土佐・修行道場篇 (本篇U)
北村 香織
第5日
3月20日(火)晴れ

5時起床。気温が低くて布団から出るのが苦痛だった。昨夜は四国では珍しく夢を見た。何故か四国ではほとんど夢を見ないことを「日常が夢見がちな"夢の国の住人"である私にとって、四国は私の夢の世界そのものではないか」と昨日自分で解釈した矢先のことで、これもまたお不動さんの影響かも? 6:55 UP。大谷旅館のおばあちゃんが百円のお接待、そして丁寧に繰り返し道を教えて下さった。お礼を言って歩き出す私を深々とおじぎしてお見送り下さる。角の所で振り向くと、まだそのままの姿勢を崩されない。思わず涙があふれる。なんだろう、これは。そしてこの熱い涙は? どうして四国にいると、こんなにやさしい気持ちになれるんだろう―――。

そえみみずへんろ道を目指し、集落を抜けて行くと、民家からちょうど出てこられたおばあちゃんに呼び止められた。ずっとお遍路さんに対してお接待を続けてこられた方らしく、かごにその品々をきちんと準備されていた。息子さんがご病気だとのことで、私は夏に丸和石材さんでいただいたお大師様の姿札をお渡しした。とても喜んで下さったようで、私自身もうれしかった。この方のお接待にもまた涙…。大谷旅館のおばあちゃんも、この方も、お二人とも純粋で清らかで本当に美しい。そしてなによりあたたかくて…。心からお二人のお幸せを念じながら、自分自身がやっとまともなお遍路さんになれた…というのか、改めて真の遍路のスタートラインに立てたような気がした。今まで漠然と感じていた、私の内と外の二つの眼。私の内界にあって常に自分を見つめる眼と、外界を常に客観的に見つめようとする眼。この二つはこれまでそれぞれが独立的に機能していて、それで特に不足はなかったけれど、今これらがうまく統合されたような気がして、一昨日のお大師様の錯覚も、あれは内なる眼(=心理的現実)も外なる眼(=錯覚)も、どちらも本当なんじゃないかという気持ちになった。どちらも真実。そう信じよう。

そえみみずの道はとても歩きやすく、私にとっては快適だった。さっきのお接待のポカリスエットで休憩していると、お不動さんが追いついてこられ、ここからまた同行させていただく。最高の見晴らしに二人思わず声をあげながら、山頭火や芥川の話で盛り上がる。

国道に出てコーヒータイム。喫茶店に飾ってあった石鎚山の写真が見事。ママさんと石鎚山のお話になる。神が宿る霊峰・石鎚。いつか登ってみたい山である。結局コーヒーをお不動さんにご馳走になってしまった。そのまま色々とお話しながら国道を行く。大嫌いなR56も、こうして連れがあれば全然苦にならない。ありがたい…。11:40喫茶店ゆりでお昼休憩。焼きうどんを頼んだら、ニラが入っていてこれが美味しい。またまたお不動さんにご馳走になってしまって、私が一足早く発つことになった。たった2日間だったけれど、どんなにか大切なことを学ばせていただいたか分からない。この方に出逢え、心の交流をいただけたからこそ、今あたらしく一皮むけた(かもしれない)私がここにいる。お店を出て、また涙があふれてとまらなかった。なにか大いなるものへの感謝を胸に…。

13:00道の駅・窪川。手前で別れる野道の方に行きたかったが、トイレ休憩のためこちらに。ベンチに座っていると男の人が話し掛けてき、話をしていると、突然「お接待させて下さい」とおばさんが現れた。小さな手帳に千円札をはさんで差し出される。驚いて受け取った途端に、さーっと人に紛れてしまったのか姿が見えなくなった。男の人ももうその場から立ち去っていて、私は一人その手帳を開いてみた。丁寧な文字でびっしりと法話が書かれており、思わず引込まれる。はっと息を呑むほど、これを書かれた方の真剣な想いが伝わって心に響く。改めてこの不思議なご縁を受けとめて、UP。

14:25 37番岩本寺着。初めて鐘をつかせてもらう(いつも忘れてしまっていた)。本堂の天井画が素晴らしい。あるご夫婦が車のお接待を申し出て下さったが、お断りさせていただいた。そこへチェックのシャツのおじいちゃんが声をかけてこられ、写真を撮って下さる。14:50 UP。が、山門から道がよく分からずまごつく。脇のお土産屋さんで聞くと、快く教えて下さった上に土佐ジロー饅頭をお接待いただいた。歩いていると、おばちゃんがお財布を取り出しながら小走りで来られ、50円玉をあるだけ(4枚)いただく。こうしていただくお金は、今後の札所のお賽銭にさせていただこうと思う。

 18:00 佐賀温泉着。ドライブインとホテルと温泉が合体した感じで、フロント係の人も気さく。下の食堂からおいしそうな匂いが漂ってくる…。ゆっくり身体を休めて就寝。

本日の歩行距離: 30.3km(32889歩)
四国遍路目次前日翌日著者紹介