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掬水へんろ館雨遍路コウシン

《ウオークマン》

 国道55号に出た。徳島市の中心から18番への道は2つのルートがある。比較的交通量が少ないと思われた眉山下の道を歩いてきたが、私の道は勝浦川の手前でこの国道55号に合流していた。
 騒音の激しい道路は疲れる。私は120分の音楽テープを用意してきた。特に国道ではその音楽テープを一心に聴いた。1時間で片面が終わるので歩行時間を知ることもできる。テープが終わると小休止を取るうにした。何よりも、歌を深く聴くことができる。また数々の歌はいろいろなことを思い出させてくれる、また考えさせてくれる。
 加藤登紀子さんの歌を中心に編集してきた。百万本のバラ・川は流れる・難破船。これらは特に私を強くとらえる。
 これは車の騒音対策にも良いと思うのだけれど、少々気が引けることがある。イヤーホーンを耳にした遍路姿は、どこか変ではないかと思うことだ。はじめの頃は、人が来るとあわててイヤーホーンをはずしたものだ。しかし、カメラも携帯電話も持たない自分であるから、これくらいはよいだろうと身勝手な言い訳をした。
 それに、使っているカセットは「WALK MAN」。つまり「歩く人」である。私のような遍路には、まさにふさわしいグッズではないか、とますます自己中の理屈で、自意識過剰を吹き飛ばした。

 いつしか、道は国道を離れ民家の点在する道に変わり、やがて恩山寺への登りとなった。その上り口には民宿があった。大きな犬が2頭いる。一瞬恐怖を感じたがおとなしい犬だった。自販機でお茶のボトルを買い、18番に向かった。
 恩山寺に到着。午後2時。
 空海とその母親の逸話で知られるお寺である。私は自分の母親とは長く疎遠を続けている親不孝者ゆえ、このお寺にお参りすることにはなにか苦しいものを感じてしまう。  納経を終え、山門を出る。坂道を下り終えると突き当たりに道標があり、立江寺の方角を教えくれた。1時間少々で到着するようだ。

 家並みが密集しているその手前の川沿いに郵便局をみつけた。私は、はがきと切手を買うために入った。入って行くと窓口の女性と目が合った。私をみてニッコリ微笑んでいる。自分の姿に一瞬恥ずかしさを覚えたが、すぐに気を取りなおして、大きな声で挨拶をした。
 「こんにちは。」
 郵便局を出てさらに川に沿って歩くとすぐに「立江寺駐車場」の看板があったので、札所の近くに到着したことは分かった。しかし、どの方向へ行くのか分からない。道は2つに分かれ、一方は小さいながら商店街風の通りで、もう一方は、公民館らしき建物の横を左へ回り込んでいる。
 少々迷った後、商店街の道を選び進むことにした。その時、駐車場の看板をよく見ると、なんとその2枚の粗末な看板は、建設省設置の「四国の道」の石柱に、まるでそれを隠すかのように縛りつけてあるではないか。これはまずい。一体誰の仕業なのだろうか。せっかくの道しるべがこれでは役に立たないではないか。
 3時45分、立江寺の山門をくぐる。
 境内に入るとすぐ左にベンチがあったので荷物をそこにおろし、何よりも先に体を休めた。クツを脱ぎ素足になって足を投げ出して休んだ。
 しばらくすると遍路装束姿の団体がやってきた。年季の入った青い作務衣を着た先達さんが一緒である。これでは納経に時間が取られるかもしれないと少々慌てたが、その団体は寺に泊まるようで、そのまま正面の宿坊らしき建物の中に入って行った。
 4時半寺を出て、私はまたウオークマンとなった。

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