月刊「在家仏教」2005年1月号より転載(pp.58-59)

『ネットで語り合う四国遍路の楽しみ』

串間 洋

 弘法大師・空海の史跡を尋ねて四国八十八ヶ所を巡るお遍路さんは、年々増加していて年間20万人とも30万人とも言われる。バスやマイカーで回る人が多い中、昔ながらの遍路道をたどって歩き通す人も年間3千人にのぼる。私は、平成8年から歩き遍路を始めた。約1200キロの道を一巡するには40日ぐらいかかる。しかし、現役サラリーマンの身であり、そんなに長い休みはとれない。連休などを利用して歩き継ぎ、3年かけてようやく結願できた。その魅力にとりつかれて、その後も1年に何回か歩いており、今や3巡目だ。

 四国八十八ヶ所巡拝については、ガイドブックも多数出版されており、また旅行社などから各種のツアーも行われている。だが、特に歩き遍路を個人として実行するには、不安や疑問も多い。また、巡拝を終えると、その感動を人と分かち合いたくなる。  「歩き遍路を中心とした四国遍路の実践」──これが、私の開いているホームページ「掬水(きくすい)へんろ館」のテーマである。

 私を含めて10人の徒歩・自転車・バイクの遍路日記、入門解説、遍路関係の書評、「よくある質問と答」、用語解説などが中心である。また、リンク集には、遍路日記124件を始めとして、旅行社や巡拝用品・表装店、交通機関の情報など370件のホームページを収集し、お遍路に関する総合サイトを目指している。

 一番人気のコーナーは、参加者同士が情報交換を行う「談話室」だ。これから遍路に出かけようとする人が疑問や不安をなげかけると、経験者から暖かい励ましやアドバイスが書き込まれる。また、数十日の歩き遍路を終えて帰宅したばかりの方からは、生々しい感動や感謝の報告がある。今年は、相次いで襲来した台風の被害で通行止めとなった寺院もあったが、現地から道路事情などの報告が続々と寄せられ、仮納経所の設置場所などについてもいち早く周知することができた。

 「掬水へんろ館」には、1日に千人余りの訪問者があり、月間のべ15万ページが閲覧されている。アクセス統計を見ると、平日の12時台と21時台にピークがある。私と同じようなサラリーマンが、会社の昼休みや帰宅後に「掬水へんろ館」を開いて、「いつか自分もお遍路に」と計画を温めているのだろう…と想像がふくらむ。パソコンの画面の向こう側にいる見知らぬ同志に「思い切って、あなたも歩いてみませんか?」と応援メッセージを送りたくなる。

 「交通の発達した現代にわざわざ歩き遍路とは、よほど信仰が厚いか、それとも何か思いつめて?」と見られることもあるが、実は、意外に軽い気持ちで始める人も少なくない。インターネットでは、簡単に情報がやりとりできるだけに、こうした安直な遍路の増加を助長している面もある。しかし、さしたる信仰心のない者でも、四国の自然や、地元の暖かい人々に助けられて八十八ヶ所を巡る間に、感謝の心が芽生え、あらゆるものに自然に手を合わせるようになる。そこが千年以上も続いてきた「大師の道」の底力だ。

 世相の影響で揺れ動く部分があったとしても、根幹は変わらず、人々を受け入れ続けてくれるものと信じ、私なりの活動を続けていきたい。

(くしまひろし/会社員、「掬水へんろ館」館主)


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