掬水へんろ館第5期前日談話室メール
掬水へんろ館四国遍路ひとり歩き 第5期くしまひろし

あとがき

どなたかの遍路日記で、「(遍路から帰ってからも)橋を渡るとき傘をすっと持ち上げてしまう」と書かれていた。橋の上では金剛杖をつかないという遍路中のしきたりが、日常生活の中でもふと顔を出すということである。

僕の場合、それはあいさつである。遍路から帰ったあと最初に出勤する道すがら、知らないおばさんや知らない子供とすれ違うとき、ニコッとして「おはようございます」と言いそうなるのだ。

都会では、それは変な行動だ。あいさつを交わすのは、知っている同士か、店員と客のように特定の関係が生じる場合に限られる。でも、ほんとうは誰とでもあいさつを交わす社会であったらいいのになと思うこともある。一人でもそういう行動を始めれば、社会は変わるだろうか。


四国遍路を歩いて、四国の人々のお接待に代表される「やさしさ」に感銘を受けるのは毎度のことだ。今回は特に、愛媛の女性たちの和顔施(わがんせ)が心に残った。いや、それは、妙齢の女性だったから、魅力的な容姿だったから、そう感じるのだろうということを男性の僕としては否定はしない。でも、それで元気が出たのは本当なんだ。


さて、僕の区切り打ちも75番まで来て、88番まであと数日間の行程となった。残る結願の旅を控えて、心ときめくと同時に、寂しくもある。

(98.10.31)

2000年が明けてまもなく、思いがけず民宿岡田のおかみさんの訃報に接した。急に倒れて数日後、帰らぬ人となったという。歩き遍路のニーズを熟知し、なにくれと世話をやいてくれ、食事のときは一緒に座って、これまでに出会ったお遍路さんのことを、あれこれと語り続けてくれた。もう一度お目にかかりたかったのに残念だ。ご冥福をお祈り致します。

(2000.7.1 追記)

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