掬水へんろ館遍路日記第5期前日翌日談話室メール
掬水へんろ館四国遍路ひとり歩き 第5期くしまひろし

第2日(8月23日) コスタブランカ〜54番〜56番〜コスモオサム(今治市中寺)

起きてトイレに行くとき、廊下で昨日の耳輪の外人とすれ違った。「オハヨゴザマス」と向こうから礼儀正しくあいさつされてしまい、「先を越されてしまったな」と反省する。

6時に2階に下りてレストランで朝食を済ませ、6時35分、コスタブランカ出発。

海沿いに歩き、7時ごろ菊間町に入る。この町は瓦の工場が多い。○○製瓦という看板が道路沿いにたくさん並んでいる。

番外霊場 遍照院

遍照院
遍照院

朝から暑い日差しの中を1時間ほど歩いたころ、番外霊場の遍照院があったので、一休みすることにした。境内は、広々として気持ちが良い。施餓鬼の準備とかで、オジサンたちがシキミを運び入れている。

賽銭を入れ手を合わせるだけの簡単なお参りをして、境内にある「みかへしのそてつ」など眺めていたら、茶店のおばあさんが「おへんろさーん」と呼んでいる。店の冷蔵庫から冷たく冷えた缶ジュースを出して来て、お接待してくれた。きちんとお参りしたわけでなく、納経したわけでもないのに、こんなに手厚くもてなしてもらって申し訳ない…感じてしまうところが区切り打ちの悲しさである。遍路を続けるうちに、無償の「お接待を素直に受ける感覚」を身につけたはずなのに、都会に戻って日常生活を送るうちに、すぐにその心を忘れてしまって「見返りの論理(give & take)」が出てきてしまうのだ。

「どちらから」とお決まりの質問に、「横浜から」と答えると、「横浜や千葉の人が多いね」という。遠くから来ているということで印象に残るからなのかどうか、同じような感想をもらす人に何回も出会う。横浜住民や千葉住民には、遍路に出るような要因があるのだろうか。

ジュースを飲みながら、取材心を発揮して、「あそこにある『みかへしのそてつ』というのは何か由来があるのですか」と尋ねてみると、「ああ、あれはね、昔から生えているんだよ」と簡単明瞭な回答だった。

8時、菊間橋のローソンにてパンとお菓子を買い、トイレを借りる。徳島から土佐にかけては、国道沿いにもコンビニなどはほとんどなく、食料やトイレには苦労したが、愛媛に入ってからはコンビニが豊富なので助かる。


犬の散歩の子供たち

犬の散歩の子供たち
犬の散歩の子供たち

9時30分、大西町に入り、大原屋商店という店の前で休憩する。閉まっている店の前の自動販売機で飲物を買っていると、男の子が犬を連れてベンチにやって来た。犬も暑いのだろう、舌を出して「ハッ、ハッ」とあえいでいる。少し遅れて、もう少し小さい男の子と女の子が、やはり犬を1頭ずつ連れてやってきた。犬を散歩させるのが日課になっているらしい。あとの2頭も同じように長い舌を出してあえいでいるのがおかしい。

「何分ぐらい散歩させるの?」「5分ぐらい。朝と夕方、1日2回」。女の子の連れている犬が、しきりと僕のズボンの裾に鼻を近づけている。女の子が「におい嗅いでる。この犬は噛まんから大丈夫」と弁解するように言う。最初の男の子が「シロには注意した方がいい。シロっていうのはもっと大きい白い犬なんだ。すぐ噛む。どんな犬とでもチューしよる。人でも犬でもすぐ吠える」。

「写真撮ってもいいかい?」とカメラを構えていると、「はよせんと、シロが来るけん」と通りの向こうを気にしている。

子供たちに別れを告げて歩きだすと、しばらくして、向こうの方から大きな白い犬のロープを二人がかりで引っ張った男の子と女の子の姿が見えた。「その犬はシロっていうの?」と聞くと「そうだ」という。でもさっきの話と違って、犬の方は暑さに参っているのか、まったく消極的で、わずかな日陰を求めて側溝に入ったまま出てこないのだった。


施餓鬼の延命寺

11時10分、今治市に入るころには、もうバテ気味である。やはり夏の遍路はしんどい。

54番延命寺のすぐ手前に近見二郎坊無料休憩所がある。広い駐車場の一角に2階建ての食堂とみやげ物屋があり、「トイレ自由にどうぞ」と表示がある。中に入ってみるとひんやりと冷房がきいていた。トイレを借りて出る。

54番 延命寺
54番 延命寺

11時45分、54番延命寺着。今日は施餓鬼のためか、境内にはたくさん店が出て万国旗が張られ、提灯が吊ってある。人出はこれからのようで、店番のおばちゃんたちは、手持ち無沙汰の様子。その中の一人に何か呼びかけられたような気がして振り返ったが、よく分からないのでそのまま寺を出た。1分ぐらいしてから、僕の頭の中でようやく先程の声の解析が完了して「ずっと歩いて回っとられるの?」と言われたような気がした。アクセントというか、土地の人の話し方に耳が慣れていないので、とっさに意味が分からないことがある。きちんと返事しないで通り過ぎてしまい、申し訳ないという感情と、せっかく話をするチャンスだったのにという後悔とで、気持ちが沈む。

近見二郎坊
近見二郎坊

先程の近見二郎坊で昼食にしようと、来た道を引き返す。ちょうど貸切りバスで団体が着いたところで、鈴の音も賑やかにぞろぞろと延命寺に向かう白衣の人々の列とすれ違う。

近見二郎坊の2階のレストランに入ってみると、席は大部分ふさがっていて、人のいないテーブルにも食事が用意してある。「やや、これは貸切りか」とガッカリしていると、出てきたウェイトレスに「今日は施餓鬼で忙しいのでお休み」とやっぱり断られてしまった。あきらめて、店を出ようとしたとき、奥の方から「歩きの人やろ。悪いけんちょっと待ってもろて」とおかみさんらしい声が聞こえた。そして、アツアツのお握りとタオルのお接待を頂いた。白米と赤飯のおにぎり計3個。歩きながら食べるわけにもいかないので、しばらく歩いて、阿方のバス停からちょっと入ったところにあるAコープの脇の崩れそうなベンチにて、ハフハフ言いながら食べた。やっぱり炊きたてご飯のお接待のお握りは、コンビニで買うものより、はるかに美味しかった。


山門封鎖の南光坊

55番 南光坊
55番 南光坊
団体のお遍路さん
団体のお遍路さん
団体さんの読経(約18秒)
RealAudio
RealAudio
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SoundClip
サウンドクリップ
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丘の上の市営墓地の中を抜けて、今治中心部に向けて歩き、13時20分、55番南光坊に到着。ここの山門は、鉄柵とロープで厳重に封鎖してあって入れない。仕方がないので、裏に回って駐車場の方から入る。納経のとき、「なぜ山門をふさいでいるのか」と尋ねてみると、「工事中でまだ完成していないから」とのこと。車の人は自然に駐車場から入るからいいが、歩いて来て山門から入ろうとする人に対しては回り道の表示も何もなく、何となく釈然としなかった。

お参りを済ませてベンチで休憩していると、20人ぐらいの団体さんがやって来た。子供やお年寄りもたくさん混じっている。後で貸切りバスの名札を見たら、大阪極楽会と書いてあった。皆を案内している先達さんが、僕に会釈して通り過ぎた。灯明と線香を備え終えた全員を本堂の前に並ばせると、全員分の賽銭をじゃらじゃらと入れ、読経を始めた。団体さんの読経は独特のメロディーがあり、聞いていると面白い。唱え方にも2種類あって、斉唱型で、全員が同じ音程で唱える人々と、メロディーの上下は並行しているのだが音程はそれぞれバラバラという不協和音的唱和とがある。このグループは斉唱型だったが、不協和音型も味があって心地よいものだ。

南光坊を出て少し歩いたところで、JR予讃線を横切る。近くのJR今治駅の売店で当地の絵はがきを買おうとしたが、四国一般のものしかおいてなく、残念だった。

住宅街の中の道をほぼ一直線に56番泰山寺を目指す。『同行二人』の地図にはない広いバイパスを横切り、その先0.6キロで、14時45分、56番泰山寺(たいさんじ)に到着。


天気雨

お参りをしているうちに雨が降りだした。しばらく雨宿りすることにして、納経所で今日の宿のホテルコスモオサムまでの道を尋ねた。道順は単純で、歩いて40〜50分ぐらいで着くだろうという。

ここ泰山寺には宿坊があるので、本当はここに宿泊するのが都合よいと思っていたのだが、事前に電話してみると「8月はシーズンオフなので、宿坊はやってない」とのことだった。『同行二人』の宿所一覧表を見ると、6キロほど先の58番仙遊寺の備考欄にも「宿予約」と表示がある。そこで、電話してみたが、こちらは「宿坊はありません」とのことだった。代わりに紹介されたのがホテルコスモオサムだ。「お風呂が良かったと評判ですよ」という。しかし、納経所の閉まる17時までに58番に着くのは少しきつそうだし、行けたとしても、それからコスモオサムに泊まるのでは、明日の行程が中途半端になる。そこで、今日はここ56番までにして、コスモオサムに泊まることにしたのだ。住所から想像するとそれでもあまり回り道にはならないと思えた。

寺務所の縁側に腰掛けて雨が止むのを待つ。天気雨で青空が見えているが、雨足は結構強い。20分ほどしてようやく雨も小降りになってきたので、出発することにした。

いったん、バイパスまで戻り、右折して蒼社(そうじゃ)橋を渡り、田園地帯に一直線に伸びるバイパスを延々と30分以上歩くと、ようやく田園風景の中に6階建てのビルの最上階にホテルコテスモオサムという大きな看板が見えてきた。16時5分到着。


コスモ温泉

コスモオサム
コスモオサム
生ビールサービス券
生ビールサービス券

3階の「コスモ温泉」と名打った大浴場は、仙遊寺の人が推薦するだけあって、超音波風呂、マッサージ風呂、水風呂、その他合計10種類くらいの浴槽がある大規模なものである。大きな駐車場があって、家族連れもどんどん入りにきている。ホテルの客はルームキーを提示すると無料で入れる。フロントの女性に「本当の温泉なの?」と尋ねると、「くみ上げた水を沸かしている」ということだったが、温泉法上の温泉なのかどうかはよく知らないようだった。

風呂上がりに、大浴場と同じフロアにある喫茶店で大盛りの宇治金時を平らげた。近隣から風呂に来た客たちが生ビールのジョッキを傾けている。僕もフロントで『生ビールサービス券』なるものをもらったが、残念ながら遍路中は禁酒と決めている。

さて、夕食をどうするかだが、このホテルはバイパス沿いとは言え、田園地帯のど真ん中に立っており、近くにレストランなどは見当たらない。結局、このホテルの中で食事するしかないわけだ。

1階に、寿司プラザ彗星という回転寿司があったので行ってみた。昨日の回転寿司が良かったので、食べ比べてみようと思ったのだ。ところが残念ながらここは臨時休業。しかたなく、フロントの脇にあるメインのレストランで、てんぷら定食という平凡な夕食になってしまった。少し前にかき氷を食べたばかりなのに、体はまだ水分を欲している。お冷やを2回お代わりし、出されたお茶も全部飲んでしまった。部屋に戻ってからも水をガブガブ飲んだが、トイレには行きたくならない。歩行中バテ気味だったのは、水分補給が足りなかったからなのかと反省する。

コスモオサムから今治平野を望む
客室の窓から今治平野

明日のために、フロントで57番栄福寺への道を聞く。『同行二人』の地図を見せて、このホテルがどこに位置するのか確認しようとしたが、バイパスが載っていないし、田んぼの真ん中なので、ホテルの女性も「だいぶ古い地図ですよね」と言いながら首をかしげている。フロントに備付けの色々な地図を出してきて調べてくれたが、車遍路用の地図ばかりで、歩く場合の最短経路はよく分からない。結局、蒼社橋まで戻るのが確実ということになった。コの字型のコースになって少し遠回りのようだが、道に迷う危険は犯したくない。

48,593歩、28.3キロ。


掬水へんろ館遍路日記第5期前日翌日談話室メール