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掬水へんろ館四国遍路ひとり歩き 2004年春

セオリー

    5月5日(水・こどもの日)

    11番〜13番は、山道や長丁場が続いたが、13番大日寺からは平地に比較的近接して札所が連なっている。16番観音寺に近づくと、なべいわ荘で同宿だった黄色いキャップの女性が反対方向からやってきた。

    「どうしたの? 今頃こんなところで何してるの?」
    「きのう予約した宿に17時頃着いたらなぜか断られてしまったので、仕方なく徳島まで出て一泊、スキップした札所を今朝から逆打ち中なんです」

    最近、歩き遍路の無断キャンセルが問題になっているが、宿側からのドタキャンなんていう話は初めて聞いた。

    観音寺門前では、るるぶさんがデジカメと格闘していた。

    「どんどん撮ってたら、メモリの容量が残り1枚。次の17番まで打って帰るので、あともう2枚撮れればいい。解像度を下げれば撮れるはずなのに、どうしても操作が分からなくて…」

    僕のデジカメと同じメーカの製品なので「どれどれ」とやってみたが、状況は同じだ。結局、このお寺の分は僕のカメラで撮っておいて、メールで送ってあげることにした。僕のほうは出発前に256MBの媒体を買ったので、容量は有り余っている。

    きょうは連休最終日。17番で打ち止めという人も多い。思いついて近くのJR府中(こう)駅に寄ってみた。誰か顔なじみがいないかと思ったからだが、残念ながら待合室は空だった。「遍路は3度再会する」というが、ご縁がなければそれっきりだ。

    17番井戸寺には、きのうお昼をご一緒したアパレル社長のMさんがいた。今日帰ると言っていたのでお別れの挨拶をしたかったが、中国語で熱心に携帯電話中。お勤めを終えてみるともう姿はなかった。

    るるぶさんが到着して、静岡の女性と一緒に地元のおじさんたちに囲まれている。若い女性はどこでも人気の的だ。たぶん、ここでお別れとなるので、遠くから「じゃあ、お元気で」と手を振って、井戸寺を後にした。

    鮎喰川に向かう。路傍のビニールハウスは、地面近くのビニールが大きく捲り上げてあり、そこから徳島いちごの甘く濃密な香りが漂ってくる。

    堤防の階段で、河原の風景を眺めながら昼食にした。お接待で頂いた散らし寿司である。今朝、建治寺から下界に下りて13番大日寺を目指して歩いているとき、沿道のおばあさんから「お遍路さーん、待ってやー」と呼び止められたのだ。ザックに仕舞い込んであるコンビニの調理パンでなく、おばあさん手作りのご飯、新竹の子の食感を味わえることを幸せだと思った。

    ここまでは順調だったのだが…。

    17番から18番へは徳島市街を通るルートが一般的だが、今回は歩いたことのない地蔵越ルートを試してみることにした。地図を見ると、上鮎喰川橋を渡ってから地蔵院に向かうのにAルートとBルートがある。0.5キロほど近いAルートをとることにした。ところが幹線道路からの分岐点がどうしても分からない。地図と首っ引きで数百メートルの範囲を2回往復したあげく、馬鹿らしくなって道順の分かりやすいBルートを行くことにした。これだけで30分ぐらいロスしたと思う。

    地蔵院は、広々として気持ちの良いお寺であった。単に通過の目印としてしか意識していなかったが、お参りを済ませて境内で休んでいるうちに、納経してもらおうという気持ちになった。今朝、散らし寿司をお接待して下さったおばあさんの祈りを、きちんと形にしたいと駆り立てるものがあったのかも知れない。玄関でブザーを鳴らし、出てきた奥様に別格納経帳の末尾の空白に納経をお願いすると、わざわざ中に持ち帰って戻ってくるまで、しばし時間があって、そんなことを考えた。奥様は、納経帳を返しながら遍路道の入口を丁寧に教えてくださった。

    地蔵越遍路道は最近復元・整備された道と聞く。せせらぎ沿いに鹿威し(ししおどし)の音が響く。単なる山道ではなく、ほかの遍路道にはない風情だ。

    峠を越え、里に入り、園瀬川を渡り、136号を過ぎるあたりから道に自信がなくなった。地図を見ながら即断即決で進んでいるうちに、道は勝手に左にカーブしていき、恩山寺のある小松島から離れて徳島中心部に向いていく。なかなか尋ねる相手もいない。ようやくサンバイザでウォーキング中の女性に出会ったので、何とか現在地を推定し、55号バイパスに出ることができた。

    この先が長い。一直線の道路を延々と歩く。気温も高く、バテ気味だ。地蔵院への0.5キロにこだわって時間をロスしたうえに、道を間違えたこともあり、あせりが出てくる。よくないことだと分かっていながら、休みなしに歩いた。

    【あまり参考にならないタイム】
    井戸寺[12:00]…昼食休憩…地蔵院[14:15]…恩山寺[17:20]

    宿に着いてみると、案の定マメができていた。高い気温、休憩不足、急ぎ足、舗装道路…マメ発生条件が揃っている。実に、セオリー通りだ。

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