掬水へんろ館遍路日記第1期前日翌日談話室
掬水へんろ館四国遍路ひとり歩き 第1期くしまひろし

第4日(5/14)12番〜13番

焼山寺へ

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早朝の尾根
6:30出発。Kさんはしきりとご本尊に向かってお経をあげている。

今日は、一本杉庵(740m)と焼山寺(700m)の二つの山を登らなければならない。山中を歩いていると蜂の「ブーンブンブンブンブブーン」というのがお経に聞こえてくる。うぐいすの鳴き声が美しい。早朝の尾根歩きは気持ちがいい。のんびり登る僕をKさんがすたすたと追い抜いていく。

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へんろ道
無人の一本杉庵を越えて左右内の谷間の集落に降り、再びしばらく登ったところで休憩していると、後ろからKさんがやって来た。あれっいつ抜いたかなあ…。谷のところで道を間違えたんだという。おばあさんに「これこれどこへいくつもりじゃ」と呼び止められたそうだ。集落のあるところだからまだ良かった。

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第12番 焼山寺
9:30に第12番焼山寺に着いた。四国遍路の最初の難所を無事クリアしたので、ほっとする。焼山寺は、ガイドブックに「幽玄さに包まれている」などと表現されているので期待していたが、快晴のせいかあっけらかんとしていてちょっとがっかりする。納経所で焼山寺の絵はがきを買った。

大日寺への20キロの道

第13番大日寺へのコースはいくつかあるが、どれも20キロ以上の長丁場である。少しでも車道でないところを歩きたいので玉ヶ峠越えのコースを選ぶ。 林道をおりて県道に出るとKさんが酒屋の前で道を尋ねて歩きだすのが見える。 玉ケ峠への山道に入ると登りがきつい。今日はもう2つ山を越えているので3つ目には参ってしまう。もっとよく地図を見て覚悟しておくべきだった。玉ヶ峠の無人の庵で一休みする。水道の蛇口があるが、水は濁っていた。

林道を降りて降りて降りてずっと降りて県道に出ると、うどん屋さんの中から鈴の音が聞こえる。Kさんらしい。少し行って自動販売機で飲物を買い、酒屋で買ったパンをぱくついていると、Kさんが追い抜いていく。ここから13番までは、県道や国道を11キロ歩く。歩道のないところが多い。大型車が行き交う脇の路肩を歩くのは楽しい時間とは言えない。僕は歩くのは好きだが、山道を歩くのと違って、舗装道路を歩くことには生理的な快楽はない。

自動販売機に缶コーヒーを補充していた男の人が「まだあまり冷えてないけど」と一本くれる。 おばあさんが八朔をくれる。お賽銭も頂く。

14時18分、広野郵便局の前のポストを机代わりにして絵はがき2通を書いて投函。 道ばたの商店で「宅急便」ののぼりを見つけ、思い切って不要品を自宅に送り返すことにする。厚手の登山用シャツ、電気ひげそり、予備の下着などを、店の人からもらったダンボールに入れて発送した。ザックがすごく軽くなったように感じる。足取りも軽くなる。どんどん進む。

「遍路」の点と線

遍路というのは、形式的に言うと、各札所で巡拝して納経印を頂くということで、歩いて回ろうが、交通機関を利用しようがかまわない。もちろん、現在では車で回る人が多く、ジャンボタクシーというのがあって、数人でタクシーを借り切って回るのが、時間的にも経済的にも一番効率的だとのことだ。歩いて回るというのは、まあどちらかといえば変人か、歩くのが好きか、よほど宗教心があって修行したいという人なのだと思う。ただ、歩くという観点からすると、四国遍路のコースは舗装道路が多く、必ずしも歩くのに優しい道ではない。僕は宗教心はないので、そうすると変人なのだろうか。

定められた地点を回ってスタンプをもらうという点では、スタンプラリーやオリエンテーリングに大変似ている。ただ、こうして歩いていると、遍路を構成する点(札所)と線(道中)のコントラストが逆転してくる。点は道に迷わないようにするための単なるチェックポイントであってその内容はどうでも良い。線の上をどう過ごすのか、どんな人と出会うのか、一人で何を思うのか(或いは思わないのか)が大切に思えてくる。一生の間に百回以上も遍路を繰り返す人もいるとのことだが、これはやはり点ではなく線のもつ重みのもたらす魅力だと思う。

夕立

3時過ぎ頃からだんだん雲行きがあやしくなって暗くなってくる。遠くから雷鳴。そしてポツリポツリと夕立である。下校途中の中学生がかけ出す。 折り畳み傘を広げるが、段々雨足は強くなってくる。今日は13番で終わりで後は宿でさっさと風呂に入ればいいので、濡れることを気にせず先を急ぐ。16時20分に第13番大日寺に着いた。ズボンがびしょ濡れ。納経所の人が、「歩きですか。雨具はお持ちですか」と気づかってくれる。

かどや旅館の離れ

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かどや旅館の離れ
お寺のすぐそばのかどや旅館に行く。玄関はちょっとした温泉旅館風でスリッパがずらりと並んでいる。「今日は団体が入っていて一杯なので離れの方にお泊まり頂きます。せまくて申し訳ないけど…」という。

離れというのは本館と路地をはさんだ向かいにあるプレハブ風またはアパート風の建物のことで一階のガレージの一角にトイレ、洗濯機、風呂、物干しがある。部屋は2階で3畳くらいの広さである。テレビと電気ストーブがおいてある。布団を敷くと部屋一杯である。 食事は本館のスナックみたいなところで食べる。食事の内容は充実していて本館のお客と同じだと思う。

まめの治療

長時間、舗装道路を歩きつづけたせいか、ついに、右足の第1指と第2指に本格的なまめができてしまった。かねて「同行二人」で勉強した方法でマメの手当てをした。まず、糸を通したぬい針をマメに水平に貫通させ、水を絞り出す。糸に消毒薬をしみ込ませてそのままマメの中を通して引き抜く。薬がしみて痛い。確かに効き目があるような気がする。救急絆創膏で保護しておく。

洗濯物を部屋の中につるす。何かに使うかと思って持ってきたビニールひもが初めて役に立つ。部屋の中は歩く余地もないのでさっさと寝る。

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