掬水へんろ館遍路の本談話室
掬水へんろ館歩き遍路

歩き遍路 辰濃和男歩き遍路 - 土を踏み風に祈る。それだけでいい。 (海竜社,2006年)
本体価格 1700円, ISBN4-7593-0935-7

元朝日新聞論説委員で天声人語を担当したことで知られるエッセイスト、辰濃和男さんの新著です。著者は、40代で1周目、60代で2周目を歩き、2周目の体験は『四国遍路』として2001年に刊行されています。

3周目は2003年秋、73歳のときに始め、5回の区切り打ちで2005年秋に結願されました。本書では、この3周目の体験を、自身の過去の遍路旅の記憶と重ねながら語っています。単なる遍路記ではなく、著者自身の遍路に対する思いも込められたエッセイというべきものです。

「セーカイセーカイダイセーカイ」という言葉が繰り返し出てきます。遍路中には、分かれ道、宿えらびなど、選択を迫られる機会が多々あります。しかし、どのような選択をしても、結果は「正解・正解・大正解」というわけです。逆に言えば、遍路に唯一の正解というものはなく、結果としてその人が体験した事実、起こった事、出会い、それこそが価値のある真実なのだということだと思います。

柏坂を越えて津島に向かう途中、おばあさんに道案内をしてもらう話が出てきます。僕も、2001年の夏に、おそらく同じ場所で同じような体験をしました(遍路ひとり歩き:2001夏「様々な遍路」)。もちろん、このおばあさんが同一人物だという証拠はありませんが、敢えてそう信じたくなります。そして「同じ体験」として共有できるそのようなエピソードが、遍路同士の間には無数に生まれているのではないでしょうか。

本書では、この3周目のへんろ記のほかに、へんろ道を歩く人々、へんろ道を復元し守る人、遍路文化を伝えようとする人などを個別に取材し、「へんろ道の人びと」としてとりあげています。様々な角度から歩き遍路に関わる人々の言葉を伝えており、元ジャーナリストとしての著者の本領が発揮されています。2003年に鎌大師堂を引退された、手束妙絹さんの近況も紹介されています。

くしまひろし

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