掬水へんろ館遍路の本談話室
掬水へんろ館【評論・解説】行歩曼荼羅―四国八十八ヶ所徒歩遍路
行歩曼荼羅―四国八十八ヶ所徒歩遍路
古藤高良行歩曼荼羅―四国八十八ヶ所徒歩遍路 (雪書房,1994年)
本体価格 4368円, ISBN4-946379-31-2 C0015

 医学博士であり、日本タートル協会会長、世界タートル協会副会長である著者が、歩行を科学的に考察するために自らを実験台にして歩き遍路を実践した著です。「行歩」というのは著者の造語で、この言葉には、健康マラソンや歩くことの普及、啓蒙に努めてきた著者が歩くことをさらに深めたいという思いが込められています。
 著者は霊山寺で実験のための測定器(心電計、脈拍計、簡易血圧計、紫外線測定器など)をつけて出発し、時速5km以上の速さ、快調なペースで歩きます。所々で総括を行なって、運動学、運動生理学からの視点で歩行を科学しています。所持品に関する問題点(杖の持ち方や、使い方、納め札入れの掛け方、念珠の使い方など)やピッチ(1分間あたりの歩数)やストライド(歩幅)などの歩行の仕方などを考察し、自らの体験から得た知識をいろいろと歩き遍路にアドヴァイスしています。
 歩行にも車同様に道の状況(平坦、急登坂、下り坂など)によるギアチェンジ(ストライドとピッチの組み合わせ)が必要だそうです。少し登りになる道ではピッチは同じでもストライドを狭めることで、息切れや疲労感がなくなる、歩行速度を早めるときにはストライドを広げるよりもピッチを増加したほうが疲労が少なくなるなど、坂道を登る時や予定よりも遅れた時の歩行に活かせます。
 その他、歩行と血圧、心拍数などの関係も考察しています。歩行終了後の脈拍を調べることで歩行が負荷になっているかどうかがわかります。過負荷のようであれば、翌日の歩行距離を少なめにすることで無理な歩きを防げます。疲れを蓄積しない、快調な歩行計画を立てるときの参考になります。
 靴ズレやマメには、経験をもとに多くの方が各自工夫をこらして考え出した方法が参考になります。しかし、靴ズレやマメは大丈夫でも足そのものや体に疲れが出てきて、歩くことができなくなれば歩き遍路も終りです。著者ならではの、歩くこと自体に関するアドヴァイス、心肺機能などからのアドヴァイスはたいへん有益です。
 後の四分の一は、遍路の科学的考察や歩くことに関する研究論文にあてられていますが、ここでは疲労時の水分や栄養の補給、入浴・マッサージなどについても触れています。
 この著を読んで、いかにして疲れが出ないように歩くか、疲れを少なくするにはどのように歩けばよいのか、ヒントが得られたらよいと思います。
 なお、著者は1995年2月にNHK教育で放映された『歩き遍路と心の科学』という番組で、この著に書かれた内容も含めて遍路体験について語っています。

投稿者: 北摂山系お伴の旅人

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