掬水へんろ館遍路の本談話室
掬水へんろ館【評論・解説】四国遍路の寺(上)
四国遍路の寺(上)
五来重四国遍路の寺(上) (角川書店,1996年)
本体価格 2427円, ISBN4-04-511302-9 C0314

 宗教学の大家である著者がカルチャーセンターで24回にわたって行なった四国遍路の講演をまとめたもので、平易な語り口で読みやすい著です。しかし、内容は平易とは言いがたいところが多々あります。巷間に伝えられているさまざまな四国遍路の伝承も含めて、遍路や札所を学問的に解明しています。その内容には説得力があり、なるほどと納得がいくことばかりです。「新視点の札所案内」と本の帯で宣伝していますが、「学問的」という言葉を付け加えたほうが内容をいっそうよくあらわしていると思います。
 講演は、火を焚く、海を拝む、海が見える、辺路、行道、奥の院などをキーワードにして進んでいきます。総論、室戸岬・石鎚山、足摺岬から始まる上巻では、熊野の辺路や王子などにもふれながら先述の言葉について概要を話し、四十四番大宝寺から八十六番志度寺までを案内しています。札所以外の辺路修行ゆかりの地にも話は及びます。
 四国遍路の始まりは辺路修行で、空海もその道を辿り、後に空海の跡を慕った修行者が辺路修行を行ない、さらに一般の人もお参りするようになり、辺路が遍路になったこと、修行者が行をしたのが山の上や険しい崖の上にある奥の院であり、彼らに便宜をはかるための小屋のようなものが後にお堂になり、お寺になったことなどがフィールドワークなどをもとに論証されています。
 著者は、奥の院にお参りして初めて四国遍路であり、奥の院を回ることで遍路の本当の意味がわかると説き、遍路に出たら奥の院へ行くことを著書の随所で著者自らもくどいというほど勧めています。
 評者がこの著に出会ったのは区切りで宇和島まで歩いた後のことでした。それまでは、「札所というのは不便なところにあるなぁ」「夏の暑いときに、なんでこんなにエライ目をして山の中の辺鄙な寺に登らなければならないのか」など、ブツブツ言いながら歩いていました。しかし、この著を読んだ後、遍路に対する意識が変わり、遍路では高いところ、辺鄙なところに行くのが当たり前と思うようになりました。昔の修行者が歩んだ道を自分も追体験しているのだと思うと、宇和島以降の遍路がさほど苦にならなくなりました。
 歩き遍路をしようという人は、下巻もあわせてこれらの著を読んでから遍路に出ることをお勧めします。これらの著を読み、自ら歩くという実体験をすることで、遍路とは何かということがよく理解できます。この著が他の札所案内とは一味違うように、その遍路は普通の遍路とは一味違う遍路になると思います。

投稿者: 北摂山系お伴の旅人

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