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大師の懐を歩く それぞれの遍路物語
福島明子大師の懐を歩く それぞれの遍路物語 (風間書房,2004年)
ISBN4-7599-1444-7

心理学の研究者の立場から、自分自身や何人かの歩き遍路体験のケーススタディを行い、心身に与える影響や意義を分析しようと試みています。

まず、第一部では自分自身が関わった旅の事実を第三者の立場から客観的に記述しています。通常の遍路日記は、一人の著者の視点からのみ語られるのが通例であるのに対し、本書のこの部分は、相互に時間・空間を共有した数人の行動をドキュメンタリー風に描いているのが特徴です。格別、ドラマチックな事件が発生するわけではありませんが、読者が歩き遍路の体験者であれば、淡々と語られる内容の端々に、既視感を覚えることでしょう。

第二部・第三部では、さらに定点観測や、結願後の面談調査によって、遍路に対する各人の考え方や受けた影響についてより広い抽出を行っています。僧侶、夫婦、旅人などいくつかのタイプの遍路が登場し、大変興味深い部分です。

第三部ではこれらの証言をもとに、遍路体験の特徴について解説し考察を加えています。「遍路を歩いた体験は独特だから、経験した人間でないとわからん」部分を何とか言葉で表現しようとしているのです。

いわゆる「霊的体験」は、個々人の「遍路物語」の文脈の中において意味をもつもので、そこだけを切り離したり集めたりすることは無意味であるとの著者の主張は、僕も正しいと思います。多くの「遍路日記」なるものは大半が同様の内容に終始しますが、それでもなおその存在意義があるのは、その「遍路物語」に含まれる一回性の出会いや体験の故でしょう。そのような視点を持つ著者でありながら、納経所や宿については「物語」を無視した批評の立場に陥っているのが残念です。著者自身の遍路体験が色濃く影響し、観察者に徹し切れなかったのでしょう。

本書は、歩き遍路の体験者にとっては自己の旅を確認するとともに、体験を他人の眼でも見てみるという意味で楽しめる作品であると思います。しかし、映画の本編を鑑賞する前に "making ..."を見るような要素もありますので、これから歩き遍路を志す方にはお勧めしません。

〔広 告〕
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