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お遍路
高群逸枝お遍路 (中公文庫,1987年) [厚生閣,1938年]
ISBN4-12-201478-6

後に女性史の研究者となった著者が24歳のときに歩いた四国遍路の回顧録です。インターネット古書店でようやく入手しました。

著者が1918年(大正7年)6月4日に熊本県の自宅を出て、八幡浜に上陸したのが、7月20日。当初覚悟したような単独行ではなく、偶然出会った奇特な老人に守護されての娘巡礼です。43番明石寺から逆打ちを始め、10月19日に結願するまでの3ヶ月は、前半は暑さとの戦い、後半はしだいに気候も和らいで、風景や地元の人々との交流を楽しんだ様子が伺えます。

納経所に関して「多い日には千人以上の納経を受け付ける」という記述があり、現在年間30万人と言われる遍路人口に近い数字となります。この当時はすべての遍路が歩いて巡っていたわけですから、遍路道は今よりももっと賑わっていたことでしょう。路傍の店先で駄菓子やトコロテンを食べたり、喉の渇きをソーダ水を癒すひとときの楽しみは、現在の歩き遍路の雰囲気と通ずるものがあります。一方、今から85年前の地図も公衆電話もない時代、一夜の宿を求めるにも一苦労です。遍路宿での慣習、道中出会う遍路や地元の青年の軽口など、当時の風俗も興味深いものがあります。

本書は、遍路旅の20年後の1938年(昭和13年)に著者が当時のことを思い出しながら書いたものです。遍路当時、九州日日新聞に連載した記事を後年まとめた『娘巡礼記』は未整理で生の感情が鼻につくところがありましたが、本書では鮮烈な遍路体験が著者の内面で消化・整理されており、僕としては共感をもって読むことができました。

〔広 告〕
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